届かぬ想いが声になって

5/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
僕はいつの間にか寝てしまっていたようだ。 時刻は20時30分。 布団からのそのそと起き上がり、現実を受け入れたくないが、スマホを見ることにした。 中学のグループトークの通知と不在着信が数件。 不在着信を見ると同じ人から十件ほどあった。 少し眠たい目をこすりながら、不在着信の相手を見ると僕は目を疑った。 それが僕の好きな人であり、今日亡くなった彼女からだったのだ。 まだ夢を見ているのかと思い、またしても頬をつねった。 やっぱり痛い。これは夢じゃない。 でも何で彼女から…? もしかして。 もしかして、彼女は生きてるんじゃ──。 あのグループトークで言っていたことは、巷で言ういわゆるフェイクニュースというやつでは……? 僕が告白できないヘタレ野郎だからって、同級生たちが仕組んだものかもしれない。 そんな僕の背中を押してくれた。 いつかはこういうことが起きるかもしれない。そうなる前に気持ちを伝えろって。 少し心が躍り、彼女に折り返しの電話をかける。 プルルルル プルルルル プルルルル ガチャ 「もしもし……?」 通じた嬉しさに少し声が裏返った気がしたが、今はそんなことを気にする余裕なんてなかった。 「やっと出てくれた」 「ごめんね、電話出れなくて。ちょっと色々あって寝てた」 彼女の声が聞けて僕は嬉しかった。 「そっか…」 心なしか彼女は少し元気がなさそうだった。 「……元気、ないけど大丈夫?」 「あ、うん、大丈夫。……あのね、私。高橋くんに伝えたいことあって電話したの」 「うん、なに?」 「あの私、もう死んでるんだけどね」 彼女の発言に僕は耳を疑った。 え?やっぱり彼女は死んでしまったの?でもこの電話は一体なに? そんな僕の疑いを気にすることなく、彼女は話を続ける。 「高橋くんに好きだってどうしても伝えたくて……あの世から電話してるんだ」 「え?」 また彼女の発言に耳を疑った。 彼女が僕を好き? そんなことあるわけ──あ、頬をつねると痛いや。 「中学の頃からずっと。それが心残りでどうしてもって神様にお願いしたら、電話することできたの」 なんと、僕たちは中学の頃から既に両思いだったのだ。 「……そう、だったんだね、僕もね。中学の頃から好きだったんだ」 「え!嬉しいな……好きになってくれてありがとう。……もう私、未練ないや。高橋くん、私がいなくなってもどうか幸せになって…………ね」 電話越しにジジジと音が鳴り、彼女との通話は終了した。 もう一度電話をかけなおしても留守電になってしまう。 こじれにこじれて十年経った今、僕たちはもう叶わぬ恋が成就した。 生前の彼女に届かなかった想いが、死後の彼女に伝わった。 それだけでも僕は幸せだった。 でも僕も彼女と同じように神様にお願いするのであれば、たった一度だけで良い。 僕は電話ではなく、面と向かって。 彼女に会って、彼女の顔を見てしっかり告白をしたかった。 神様。 僕にも願いを叶えてくれませんか? 彼女が死ぬ運命だったとしても。彼女に会いたい。ただそれだけ。 そう願っても何も起きない。 こういう時こそ、奇跡って起こるものだって信じていたのに。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加