俺視点

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俺視点

また同じ夢だ。 もう何回目なのか……。数えるのも諦めた。 ある男が俺に話しかけてくる。 『なぁ。今日いつものとこ、行かね?』 俺はこの男が誰なのか知らない。 "いつものとこ"がどこなのかも知らない。 だが、内緒話をするような声で話し、目をいたずらっ子のように細めて、最後には歯を見せて、にっ、と笑う。 そんな男の話し方が好きだった。 だから俺はいつも、おう、と答え男について行く。 今日も、おう、と答えついて行った。 いや、 ついて行こうとした。 男が俺に背を向けて歩き出し、俺はその背中を追いかけようとした、その時。 殴られたような頭痛がしだした。 夢の中の俺は思った。 これは夢じゃない。 現実世界の俺が誰かに殴られている。 そう考えた。 と同時に、このままこの男について行けば俺は目が覚めなくなるとも思った。 いつも見ている夢なのに。 いつもはそんなことは考えないのに。 だけれども今日は違う。 『どうした?』 夢の中の男が喋った。いつもの夢には無いフレーズだ。 『"いつものとこ"行かないのか?』 "いつものとこ" 男はいつもそう言う。 だが俺は一度も行ったことがない。 行く前に夢から覚めるからだ。 『行こう?』 男が手を伸ばした。 男のその行動に、何故か俺はとても懐かしい気持ちになった。 手を伸ばしかけた時、殴られたような頭痛と同時に誰かが叫んだ。 「行くな!!!」 その声に俺ははっとし夢から覚めた。 周りを見回すと、病室におり、俺のベッドの横には2人の人が立っていた。 何故だか俺の記憶の中よりも大人っぽくなった妹と、 夢の中の男がいた。 その男は、俺が目が覚めたのを見るなり目に涙を溜めた。 そして、一呼吸置いてから口を開く。 目をいたずらっ子のように細め、にっ、と歯を見せて笑いながら言った。 「おかえり」
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