おかえり

3/14
前へ
/14ページ
次へ
 「明日、十時半頃に駅に着く電車で行くから!から揚げと、筑前煮と、お赤飯作っていくからね」  仕事帰り、疲れ切ったところにパワーみなぎる母からの電話。  七十も過ぎたというのに、電話の声は昔からちっとも変わらない。    「あぁ、そんなに要らないよ。もう若くないからそんな食えないし」  俺は少しぶっきらぼうにそう答えた。  「疲れた声出して…迎えはいらないからね。タクシーであんたのマンションまで行くから。ゆっくり寝てなさい!じゃあね」  母はそう言って、ブツリと通話を切った。    俺はコンビニ弁当を買って、半端に開封された段ボールが残る部屋へと帰った。直ぐに上下スウェットに着替えて、味の濃いタレがかかった焼き肉弁当を、ペットボトルのお茶で流し込みながら食べ終えた。そして軽くベッドへ横になると、直ぐに瞼が重くなり、俺はそのまま泥のように眠った。    ハッと目が覚めると時計は九時を示していた。  「ヤバイ寝すぎた!遅刻だ」と、慌てて飛び起きたが、休日であることを思い出して、ホッと肩をなでおろした。  窓の外を眺めると、予報通りに小粒の雪がチラチラと静かに降っていた。  「寒いな」  俺は身震いして、エアコンの暖房スイッチを押した。  目も覚めたことだし、車で母を迎えに行くことにした。    シャワーに入ってからでも、十分に間に合うだろう。    その判断は甘かった。  休日の駅周辺。渋滞にハマってしまい、結局母を待たせることになりそうだ。    時計に目をやると、十時半を回っていた。  もう電車降りているだろうと、スピーカーフォンにして母に電話をかけるが、なかなか出ない。  俺はしつこくコールして、十二回目。   『もしもし?』  聞き覚えのない男の声が電話に出た。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加