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「明日、十時半頃に駅に着く電車で行くから!から揚げと、筑前煮と、お赤飯作っていくからね」
仕事帰り、疲れ切ったところにパワーみなぎる母からの電話。
七十も過ぎたというのに、電話の声は昔からちっとも変わらない。
「あぁ、そんなに要らないよ。もう若くないからそんな食えないし」
俺は少しぶっきらぼうにそう答えた。
「疲れた声出して…迎えはいらないからね。タクシーであんたのマンションまで行くから。ゆっくり寝てなさい!じゃあね」
母はそう言って、ブツリと通話を切った。
俺はコンビニ弁当を買って、半端に開封された段ボールが残る部屋へと帰った。直ぐに上下スウェットに着替えて、味の濃いタレがかかった焼き肉弁当を、ペットボトルのお茶で流し込みながら食べ終えた。そして軽くベッドへ横になると、直ぐに瞼が重くなり、俺はそのまま泥のように眠った。
ハッと目が覚めると時計は九時を示していた。
「ヤバイ寝すぎた!遅刻だ」と、慌てて飛び起きたが、休日であることを思い出して、ホッと肩をなでおろした。
窓の外を眺めると、予報通りに小粒の雪がチラチラと静かに降っていた。
「寒いな」
俺は身震いして、エアコンの暖房スイッチを押した。
目も覚めたことだし、車で母を迎えに行くことにした。
シャワーに入ってからでも、十分に間に合うだろう。
その判断は甘かった。
休日の駅周辺。渋滞にハマってしまい、結局母を待たせることになりそうだ。
時計に目をやると、十時半を回っていた。
もう電車降りているだろうと、スピーカーフォンにして母に電話をかけるが、なかなか出ない。
俺はしつこくコールして、十二回目。
『もしもし?』
聞き覚えのない男の声が電話に出た。
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