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「え…あれ?」
着信履歴の『母さん』をタップしてかけたはずだ。
間違いようがない。
『もしもし、あの…私、駅前交番の者ですが…』
―――え?何で警察?
思いもよらない出来事に、俺は動揺した。
「あの…母は?…あ、もしかしてケータイ落としたんでしょうか…」
俺がそう尋ねると、
『いえ、あの…このケータイの持ち主の女性ですが、タクシーに乗り込んだところで意識を失ってしまって…今、救急車要請したところです。あなたはこの女性の息子さんでしょうか?』
と、電話の男は少し早口気味に言った。
「え!?」
俺は、頭が真っ白になった。
―――母さんが、意識消失だって?
まさか、これは新手の詐欺かなにかか?
俺が事の状況が飲み込めずに言葉に詰まっていると、電話の向こう側から救急車の音が聞こえてきた。そして、その音は次第に大きくなる。
―――嘘だろ…
全身から血の気が引いた。
俺は、少々強引に車線を変更して車を停車させた。
激しくクラクションを鳴らされ、横を通った車の運転手から怒気をはらんだ視線を向けられたが、俺はそんなこと気に留める余裕はなかった。
『あの…この方のお名前と年齢は?』
「…篠原 光江です…歳は七十…」
声が震える。
『篠原 光江さん七十歳…わかりました。これから救急車で搬送されますが、どこの病院に運ばれるかはまだわかりません。決まりましたら救急隊もしくは搬送先の病院からあなたに連絡がいくようにしますので、名前と連絡先を教えてください』
電話の男の上ずった声がすごくリアルで、俺は不安になり手に汗がにじんだ。全身から血の気が引いて、息もまともに出来ないほどに母のことが気がかりでしょうがなかった。
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