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母がどこに運ばれるかが決まるまで、俺は身動きが取れなかった。
一分一秒が長く感じる。
スマホを握りしめて、無意識に足をゆすった。
あ…親父に連絡しなきゃ…
そう思ってスマホの電話帳を開いた。
だが、通話ボタンを押すことを躊躇って指が動かない。
父は仕事人間だった。
俺のことは全て母に任せていたくせに、何か問題を起こしたり成績が落ちると、いつも母を罵っていた。子供の目から見ても、父は理不尽な人間だった。
俺はそんな父が大嫌いだった。早く自立して足枷を外したかったのに、結局、就活が上手くいかずに父のコネを利用することになってしまった。
だから五年前にヘッドハンティングされた時は、俺にとって最大のチャンスだった。自由の翼を手に入れた気がしたのだ。
だから父から猛反対された時、俺は「俺の人生なんだから、好きにさせてくれ」「あんたの機嫌取りはうんざりなんだよ」と啖呵を切り、転職を決めた。
父とはそれきりだ。
母が今日、俺に会いに来ていることは知っているだろう。
俺が「親父には会いたくない」と言ったから、母が出て来ることになったのだ。
そのせいでこんなことになってしまって…
なんて言ったら…
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