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十五分ほどして、救急隊員から受け入れ先が決まったとの連絡が来た。
駅の目と鼻の先にある大学病院だ。
たらい回しにされることなく、近くの一流の病院に受け入れてもらえたことに、ほんの少しだけ安心した。
そして、俺は意を決して実家に電話をかけた。
『もしもし』
当たり前に父が出る。
久しぶりに聞く父の声だ。
「お、俺…潤だけど…」
俺がそう名乗ると、
『…あぁ、どうした。母さんと会えたか?』
と、父は俺からの電話を不思議に思っているような反応をする。
久々の父との会話だということと、言いにくい母の状況に、俺はモゴモゴと口ごもりながらも、
「母さんだけど…駅で倒れて、救急車で大学病院に運ばれたんだ…」
と、説明した。
『は?何言ってる…母さん、朝、普通に…』
「そうなんだけど…駅出たところで倒れて…」
ガタガタガタ…ゴトン!
急に電話口からの大きな音がして、俺は咄嗟にスマホを耳から離した。受話器を落としたのだろう。そして「親父?なぁ…大丈夫かよ?」と慌ててスマホをまた耳に当てて父に尋ねた。
『…あぁ、大丈夫だ。わかった…すぐ向かう』
聞いたこともない父の弱々しい声に、父も倒れてしまうのではないかと心配になった。
「おい、無理すんなよ。俺すぐ病院に行くから、何かわかり次第また連絡するし、ひとまず落ち着いて…そんで、車じゃなくて電車で来いよ…」
俺はそう言うと、父のケータイの番号を聞いて通話を切った。
そして、助かってくれよ…と、母の無事を強く願って車を走らせた。
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