犬に化ければ

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「やあやあどうだった?」 森に帰ると、老狐は大きく尻尾を振ってやつれた古狸を迎えました。 「……この勝負は僕の負けだ。僕は野良犬に化けられるほどの堪え性はない」 いつもはハリのある大きな腹をへこませて薄っすらと涙を浮かべる彼に、勝負を引き受けた時の元気はありません。 「うむ……だが、勝負は勝負。このままで終わることはできないだろう。では、どちらがより『犬』に近かったか、犬神の奴に聞きに行こう!」 やんわりと笑い合った獣達は、緩やかな足取りで犬神の元へと向かいました。 「仲良く2人揃ってやってくるとは何用かな?ははん……さては化け比べの決着がついたのかい」 「いいや、つかなかった。だから審判をして欲しくてな」 楽しそうに笑う犬神にガックリと肩を落とした老狐が答えます。 「僕達はそれぞれ『犬』になって人里へ行ったはずなのに、人を騙し切ることができなかったんだよ」 古狸も残念そうに言葉を続けました。 「なるほど……でもお前達は何か勘違いしているようだな」 「俺らが勘違い?一体なんのことだ?」 「僕達はちゃんと、貴方のお題に従って──」 訝しげな表情で木の葉を手に取り、まじないを唱えた獣達は砂埃を携えて踊ると、忽ちに精巧なトイプードルとドーベルマンに化けます。 「ほらよ」 「如何でしょう?」 少し自慢げに、少し誇らしげに、そしてちょっとだけバツの悪そうな2人は、犬神に向き直って答えを待ちました。 「うんうん双方ともよく似てる──でも、そんなことをしなくたって、お前達は立派な『犬』なのだよ」 何処からともなく分厚い本を取り出して2人の前に放った犬神は、驚きのあまり目を見開く化け犬達を満足そうに眺めます。 投げられた本は動物図鑑。 ハラリとめくれたページには、『イヌ科のいきもの』として狐と狸の写真が載っていましたとさ。 ─fin─
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