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金曜日の居酒屋は賑わっていた。
『12月になったから、忘年会だね。
まあ年末までにまた飲むと思うけど。
1年頑張った自分たちに乾杯!』
会社の話とくだらない話で盛り上がった。
こんなに笑ったのは何日ぶりだろう。
私の沈んだ心はまだ揺れているけれど、2人のおかげで軽くなった。
コーヒーでも飲む?なんて話ながらお店を出て歩き出した。
向かう先の歩道に4人が輪になって話している。
…ひとりは大希だった。
左肩に女性もののバッグを掛けて、右側には…スラリとして美しくて華やかな女性が大希の腕にしがみついている。
立ちすくむ私に気が付いて、2人も立ち止まった。
由美も『あ!…』と言った。
かなり酔っていそうな他の2人が大声で言うのが聞こえてくる。
『もう俺たちダシにしないで2人で会えよ!』
『また付き合うんだろ?』
女性の方は嬉しそうに微笑み、大希は曖昧な笑いを浮かべていた。
『…!何やってんの、田中さんは…!』
大希たちに向かって行こうとした由美を咄嗟に押さえた。
あんな姿の大希に近寄りたくない。
『由美!大丈夫!
ありがとう。
もうよくわかった。
心も決まったから…。』
由美は私の顔を見て勢いを失った。
私達に気が付いた大希がこちらを向いた。
目が合っているはずなのに、顔が、輪郭が掠れて視線を捉えられない。
私が好きだった人はボンヤリとした幻になった。
由美と来た道を引き返した。
見失っていた川嶋くんも少ししてから追いついてきた。
大希は追いかけて来なかった。
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