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『そんなわけで、会わずに別れたよ。』 二日間、泣いて過ごした。 そのおかげで月曜日はちゃんと会社に来れた。 いつもの3人のランチ。 大希との事を報告した。 『そっかー。 土曜日に連絡した時は心配だったけど…。 …頑張ったね。』 由美は土曜日の夜に電話をくれた。 報告したかったけれど、感情が昂ぶっていて話にならなかった。 由美は『気が済むまで泣きなね。』と言って、ただ泣くだけの電話に付き合ってくれた。 『連絡ありがとうね。 電話に付き合ってくれて嬉しかった。』 『お互いさまね。 私も散々面倒なことに付き合ってもらったもん。』 そして由美がため息をついてから言う。 『私、あの時あの女の人を振りほどいて追いかけてくるかと思ったのに。 別れてスッキリして正確だと思うよ。』 『うん、そうだね。』 追いかけてくれていたら、私はどうしていただろう。 『あ、それ俺のせいですね。』 ザルに盛られたお蕎麦を箸で持ち上げながら川嶋くんが話に入ってきた。 『ん?どういうこと?』 お蕎麦を啜って飲み込んでからこちらを見た。 『あの時先輩の彼にひと言言ったんで。』 『…! だから引き返した時、少し遅れてから来たの? そういえば大希も川嶋くんのこと、何か言いたげだった…。 …何を言ったの?』 『ドラマとかにありきたりのやつですよ。 大事にしないなら俺がもらいます的な、ね。』 『え?…』 よくわからない。 …そうか、大希を騙してくれたのかな。 『私のために大希を騙して懲らしめようとしてくれたの?』 『先輩のため、っていうか自分のためだね。 先輩、俺を次の彼氏候補として意識してよ。』 …まさかの意味だった! 『川嶋、正体バラすの早すぎ。 貴子、驚きすぎ。』 『由美…知ってたの?』 『まあね。川嶋から貴子は彼がいるのか聞かれたりしたから。 貴子は鈍感っていうか、田中さんに一途だったもんねぇ。』 突然のことに頭が回らない。 お蕎麦を食べ終わった川嶋くんが飄々と話し出す。 『前に俺が失敗した仕事を一緒に片付けてくれてから気になるようになって、飲み会で近づいたんです。 彼がいるなら何もする気はなかったですが。 フリーになったなら俺も先輩も自由です。』 …ああ…だから男女の友情は信じられない。 『だから男女の友情は信じられない、って顔してますね。 俺もそう思ってます。 友達になるつもりは最初からありません。 まずは今週末デートしましょう。』 あまりにも潔い川嶋くんに笑ってしまった。 そんなふうに思ってくれててありがとう。 デートするかどうかは、もう少し考えさせてもらおう。
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