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久しぶりの再会に浮かれていた。 真美子(まみこ)とは高校1年から付き合っていた。 仲良しグループの中のひとり。 真美子から告白してきて、初めてできた彼女だった。 初めてで不器用だったかもしれないが、自分なりに大事にしていた。 高校3年の11月頃、他に好きな人が出来たと振られた。 相手は家庭教師の大学生だという。 裏切られたショックが大きすぎて、そこから全く話さなくなった。 向こうからも話し掛けてこなかった。 だけど三学期の始めの放課後、待ち伏せられて泣きつかれた。 本気だったのは自分だけで相手はただ大人の対応をしていただけだと。 大切なのは大希だと気付いたと。 元に戻りたいと。 自分を選んでくれて嬉しかったが、バカにするなという気持ちも強かった。 強く突っぱねた。 メールも電話も本人も拒絶した。 家庭の事情で岩手の大学に行く事を聞いて動揺したが、和解する気にはなれずそのまま卒業した。 駅で久しぶりに再会した真美子は美しかった。 あの頃の未練と強く突っぱねた後悔がぐっとこみ上げてきた。 ずっと引き摺っていたわけじゃない。 学生時代の甘酸っぱい思い出として胸にしまっていた。 特に貴子と付き合う頃には思い出さなくなっていた。 再会してからの真美子は今はフリーだよとグイグイと近づいてきた。 同棲していた彼と別れたのをきっかけに、こちらで仕事を探して戻ってきたらしい。 俺の状況は聞かれなかったから話してはいなかった。 強気の真美子にとっては彼女がいようがいまいがどちらでもよかったんだろう。 美しさに、懐かしさに、真美子の積極さに惑わされたんだ。 流されて揺れていた。 揺れていたけれど、貴子との時間も捨てられなかった。 友達なんだからと自分を正当化し、携帯も隠さず貴子の職場の近くで飲んだ。 鉢合わせしたあの時、追いかけようとしたら真美子に腕を強く引かれた。 さらにあの男が鼻先まで近づいてきて『大事にできないなら俺が貰います』とストレートに言い放った。 すぐに話に聞く川嶋くんだとわかった。 貴子にもこんな存在が近くにいるんじゃないかと逆ギレしてしまった。 そして追いかけるのを止め、連絡もしなかった。 貴子に別れ話をされてから1ヶ月。 徐々に熱が冷め、日常を取り戻しつつある今。 真美子は悪い意味であのままだった。 あの頃魅力的だった勝ち気な天真爛漫さと貪欲さは、大人になった今では違和感でしかなかった。 だんだんと真美子の美しかった姿が歪んでボンヤリと見えるようになった。 取り返しのつかないことをしてしまった。 貴子の性格だと、どんなに謝罪してももう二度と戻ってこない。 『昔嫌な思いをしたから男女の友情は信じてないよ』と言っていた貴子を結局同じ方法で傷つけた。 あの時、すべてを振り払って泣いていた貴子を追いかけるべきだった。 彼の気持ちは別として、川嶋くんのことは貴子にとってはただの後輩にすぎないってわかっていたじゃないか。 別れ話をされた時に、貴子だって同じじゃないかと川嶋くんの名前を出した自分が今となっては情けない。 呼ぶと『なあに?』と返事をくれる穏やかな声が、鼻歌を歌いながらオムライスを作ってくれる姿が、映画で号泣したくしゃくしゃの泣き顔が、温かい笑顔が、さりげない優しさが、柔らかい愛情が…他の誰かのものになる。 自業自得なのはわかっているよ。 ごめんね、貴子。 君が恋しい。
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