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いつも会っていた土曜日。 昨日大希は追いかけて来なかった。 電話もメールも無かった。 私ももう、会わずに話をすることにした。 約束の時間前に電話をした。 すぐに電話に出た大希は『おう』とだけ言って黙った。 『あのさ…大希、今までありがとう。 さようなら。』 想像だけで悩んでいる時の方が苦しかった。 事実を目の当たりにしたら、心が決まるのは早かった。 『あれだけのことでっ…。 あんなの友達との酔った上のノリみたいなもんだろ。』 『そう言うと思ったよ。 彼女のことは友達だと思いこもうとしてるんだと。 だから私に対してはいつもと同じだったし、携帯も隠そうとしてなかったもんね。』 話ながら涙声になるのがわかる。 まだダメ。 泣くのは後で…自分に言い聞かせる。 『先週泊まった時、夜中にメールの通知が見えちゃったの。 大希が彼女を抱きしめたらしきことが書いてあったよね。』 『それはっ!…。 それも最初の飲み会で酔って…。 貴子だって男が一緒にいただろ。』 『いつも話してる川嶋くんね。 …大希、私はどんなに酔っても川嶋くんとそういうことはしないよ。』 『あいつ、あの時こちらに来て…』何かを言いかけて止めたようだ。 そっちだって同じだろうとでもいうように川嶋くんを話に出されて悲しくなった。 これ以上幻滅させないで欲しい。 『久しぶりに再会した彼女は大希の元カノだった?』 大希はポツリと彼女との関係を話し出した。 私は『そっか。』としか返事ができなかった。 今となってはもう何でもいいし。 『じゃあね。 大希の家にある私のものは捨ててね。』 さようなら、私が大希の特別だと思わせてくれていた物たち。 『なんでそんな簡単に…』                                                                                                                                                       『…簡単なんかじゃないよ。 ここ二週間、苦しかったよ。 大希のことならわかるよ。 彼女と私と決めかねているんでしょ。 でもさ、迷っている時点で私はもう嫌だから。』 大希は黙っていた。 『それでも昨日追いかけてくれていたらっ…。』 嗚咽しそうな自分を必死で抑えた。 『それは…』 『さよならね、大希。』 高校の友達と久しぶりに会ったという話を聞いてから二週間。 携帯の通知を見てから一週間。 そんな短い期間で私の人生は変わってしまった。 『結婚したいと思ってたんだけどな…。』 虚しいつぶやきが耳から響き、涙が溢れ出した。
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