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ハリアール王立魔法学院。 由緒正しき魔塔の一角にあるそこは、選ばれた者しか入ることを許されない。 そして出ることもまた非常に難しい。 そんな学院の中で、肩を並べて歩くのは、学院の中で十年余りを共に過ごした若き二人の青年魔法士だ。 「ロウン、妹が入学してくるそうじゃないか。どんな子だ?」 見た目だけなら女性かと思うような繊細な面立ちの青年は、見た目によらず弾けた声でそう尋ねた。 「どこからそんなデタラメな噂を聞いてくるんだ。俺には妹なんていない」 答えるのは、髪も瞳も服も黒一色、表情は氷のように冷たい青年だ。その声も氷の如く冷たい。 「そんなはずはない! あのガネーシャ博士の育てた子が今度うちに入ってくるっていう話は確かだ。ガネーシャ博士の子どもならロウンの妹だろ」 「本人が違うと言っているのに何故信じない?」 ロウンと呼ばれる青年は呆れたように足を止めた。深雑な模様が描かれた地面は、塵一つなく美しく掃き清められている。 道の脇には箒を持った下級生たちが並んで、二人が通るのを息を潜めて見ていた。 「今回ばかりは誤魔化されないよ。なぜなら、その噂の新入生のお迎え役はこの僕だからね」 親指で大きく反らした自分の胸を指してハルジオンは誇らしげに上を向いた。 新入生のお迎え役はなかなか学院の外に出ることのできない彼らにとっては役得。そしてそれだけ優秀かつ品行方正の証とも言える。 ロウンははぁぁと大きなため息をついた。誤魔化すつもりなどない。間違った情報を間違っていると訂正しただけだ。それに、今回ばかりは妙な噂が広まっては困る。面倒に巻き込まれたくないからだ。 ロウンはハルジオンの襟を掴みあげるようにして、その耳にゆっくり、はっきりと一言一句を正確に叩き込む。 「いとこだよ、いとこ。会ったことはないし、興味もない」 どこまでも調子に乗りそうなハルジオンにはいつもそうしているが、思うように伝わっているかは不明である。
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