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ハルジオンの方は一向に気にする様子もなく、
「冷たいこと言うなよ。いきなりこんなわけのわからない場所に連れて来られるんだぞ。不安に思わないわけがない。ちゃんと面倒見てやりなさい。お兄ちゃん」
最後は先程の仕返しとばかりに耳に息を吹き込まれ、ロウンは慌ててハルジオンを突き放す。
「あの母が育てた娘だぞ。どんな化け物か分からないのに、関わりたくなどない」
「そんなこと言ってもきっと放っておけなくなるさ」
ハルジオンは遠くを見る目で、実際少しの魔法を使って未来を覗き見したわけだが、一人したり顔でうなづいている。
ロウンはハルジオンの息の感触の残る耳を袖で擦りながらも、言わずにはいられらなかった。
「……気をつけて行ってこいよ」
変に胸騒ぎがする。ハルジオンに限って問題を起こすようなことはないし、たとえどんな敵が現れたとしてもそうそう負けることはないだろう。
それでも、安全を祈らずにはいられなかった。それほどに、魔塔の外の世界は今危険な状態だった。特に、魔法士にとっては。
乾いた風がふたりのローブをはためかせる。
魔塔の冬はもう少し先だった。
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