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そんな風だから、わたしはロウンを笑わせたくてしかたがない。いつもしかめっ面しているから、いざと言う時に素直になれないのだ。
これまでも何度かロウンを笑わそうといたずらしてきたから、ロウンは慌てて一歩後ろに下がる。ロウンならわたしをおとなしくさせるくらい簡単だとは思うけど、なぜだかわたしに魔法も暴力も振るうことはない。そういうところは案外優しいのかもしれない。
しばらくロウンと追いかけごっこをした後、そんなことをしている場合じゃなかったと気付く。
「この方法、試してみてもいい?」
ロウンは大きく息を吐くと、じっとわたしの目を見た。本当にわたしにできるのか見定めるように。こういうところは大人なんだと感じる。
「やってみる価値はある。だが、危険があることも分かっているな」
「慎重にやるわ」
リッドの両手を握り、ロウンにしたのと同じように魔力の流れを感じとる。最初はばらばらの方向に流れていた力をゆっくりと一定の方向へ流れるように導いていく。
長い時間をかけてリッドの中にある魔力の流れを整え終えた頃には、わたしも疲れて眠くなっていた。
呼吸も穏やかになり熱も引いたリッドは、わたしの手をじっと見ていた。
でもあまりに長く手を握っていたから、すぐには離すこともできなくて、銀色に輝く瞳を見た瞬間ほっとして意識を手放していた。
途中で誰かがわたしをベッドに運んでくれるのを感じたけれど、あまりにも疲れていて目を開けることすらできなかった。
「こんなのは初めて見た。アンは……無理かもしれない」
ハルジオンのそんな声が聞こえたような気もしたけれど、再び深い眠りの中に落ちていくのにそう時間はかからなかった。
何が無理なんだろう。もしかして、わたしハリアールには入れないのかな。そんな不安がわいてきて、その夜は酷い悪夢を見た。
魔塔に入った途端みんなから石を投げられ、追い出されてしまう夢だ。帰る家もないわたしは暗い森の中をさまよって、最後は空から降る無数の光の矢に射られて死んでしまう。
痛くて、寂しくて、とても怖い夢だった。
泣きながら目覚めた時、そばにリッドがいて心配そうにわたしを見ていた。
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