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招待状
「何か変わったことはない?」
窓辺にやってきたヒヨドリにそう尋ねるのが、わたしの日課だ。ヒヨドリは首を傾げ、窓枠に置いた餌を啄むとすぐに飛び立ってしまった。
何も変わったことはないらしい。
数年来続けているこの日課は、一番最初に養い親から教えられた魔法だった。森に危険なことがないかを鳥たちから教えてもらう魔法。
危険の報せが来ることはほとんどない。嵐がくるとか、飢えた熊が暴れているとか、ナラ枯れが起きているとか、そういった報せがたまにあるくらいだ。
渡り鳥でもやってくれば、何か目新しいニュースも飛び込んで来るかもしれないが、この時期は暖かな南の国へ行ってしまっていて皆留守だ。
吹き込む木枯らしにぶるりと震えて慌てて窓を下ろした。
もうすぐ雪が降る。
吹きすさぶ風に森が鳴いている。
同じような毎日に退屈しているはずなのに、森がざわつくのを見るとはっとさせられるのは何故だろう。
いつもと違う風が吹く時、何かが起こりそうな予感がする。今日もちょっとだけそんな予感がしていた。
階下の音に耳を済ますと、養い親であるガネーシャの揺り椅子を漕ぐ音が微かに聞こえる。
いつものように暖炉の前で本を読んでいるに違いない。
そういえば、そろそろ街へ買い出しに行く時期だ。
冬ごもりの間に読む新しい本を仕入れに行かなければならない。今日こそガネーシャの重い腰を上げてもらおう。それこそ森にも行けない冬の間に退屈死してしまう前に。
わたしは森の中の一軒家にガネーシャとふたりで暮らしている。両親はわたしが産まれてすぐ事故で亡くなったそうだ。それで母の姉であるガネーシャがわたしを引き取り育ててくれている。
ガネーシャはわたしにとって母親代わりで、先生で、友人だった。時にはけんかもするし、何日も口をきかないことだってある。
でもわたしの居場所はここしかないし、わたしにはガネーシャしかいない。
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