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体力を温存するためにベッドに横になってはいたけど、お祭りのことを考えるとわくわくして全然眠くならなかった。
まだ明るい外の様子を窓に張りついて見ていた時、ハルジオンがやってきた。
「アン、ちょっと話があるんだけどいいかな」
わたしがうなずくと、ハルジオンはベッドの脇にある椅子に腰掛けた。
「アン、もしかして移動魔法を使える?」
ハルジオンはしばらく迷った後にそう聞いてきた。
わたしも正直に答えるべきかどうか迷って、結局「使える」と答えた。
ハルジオンは「やっぱり」と言ってため息をついたまま、しばらくうつむいていた。
「移動魔法を使えない僕に、ガネーシャの弟子である君に魔法を教えることができるかな」
ハルジオンはいつも穏やかに微笑んでいて、イライラするロウンをなだめたり、わたしやリッドの面倒をよく見てくれている。
こんな風に自信のなさそうな顔を見せたのは初めてだった。
「できなかったらどうなるの」
「別の魔法士が君を迎えに来る。できれば君と一緒に魔塔に帰りたかったけど」
「わたしもハルジオンがいい」
今にもそうなりそうな雰囲気に、わたしは慌ててハルジオンの袖をつかんでいた。
「はは、かわいいことを言ってくれるね。……妹ができたみたいで嬉しかったよ、アン」
ガネーシャ以外に初めて仲良くなったのがハルジオンだった。たった一週間だけど、時間なんて関係ない。わたしはハリアールに行ってハルジオンに魔法を教わる。そう思ってここまで来た。急に放り出すなんてひどすぎる。
「移動魔法は使わない。約束するわ」
「そういうことじゃないんだ。さっき、ロウンと僕とどちらで試すか迷ったよね、リッドを治したあの方法。でも君はロウンを選んだ。たった数日一緒にいただけでもロウンの方が優秀だって君には分かったからだよね。
魔塔では、ロウンが影で僕が太陽だって言われるけど、本当は僕が影なんだ。ロウンがいなきゃ何もできない。
今回だって君と先に魔塔へ帰ることもできたのに、そうしなかったのはひとりじゃ不安だったからさ」
ああ、ハルジオンはとても繊細な人なのだろう。わたしのことをよく見ていて、それでいてわたしの気持ちを想像で補ってしまう。それはまだわたしたちの付き合いが短いせいだと思う。
「そういうつもりで選んだんじゃないわ。リッドはロウンの生徒だもの。リッドに何かするならロウンの許可が必要だと思っただけ」
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