リッドの受難

6/6
前へ
/47ページ
次へ
ハルジオンは両手で顔をおおうと、うつむいて肩を震わせた。笑ってるみたいだ。そんなおかしなことは言っていないのに。 しばらくすると、いつものハルジオンに戻っていた。 「変なこと言って悪かったね。今のは忘れてくれるといいんだけど」 「ハルジオンがそうして欲しいならそうするわ」 「ありがとう。アンは本当に優秀な生徒だ」 ハルジオンはわたしの頭を撫でて髪の毛を掻き回すと、「お祭り楽しみにしておいで」と言って部屋を出て行った。 いったい何だったんだろう。おとなもいろいろあるのね。そう思ってハルジオンの希望どおり今のことは忘れることにした。 今はお祭りの方が大事だもの。 その夜、街の広場では美味しそうな食べ物の店がずらりと並び、空にはひっきりなしに星が流れていた。 わたしとリッドはあちこちの店をのぞいては珍しいものを見ておおいにはしゃぎ、それぞれのお迎え役を散々引きずり回した。 ロウンとハルジオンは口々にわたしたちを祭りに連れ出すんじゃなかったと弱音を吐いていたけれど、その顔は十分に楽しそうだったし、あれほどの賑わいの中で宿に引きこもるなんてできるはずもなかった。 その夜、もう少し空に、あるいは流れ落ちた星に注意を向けていれば、そんな風にのんきにお祭りを楽しんではいられなかったかもしれない。 それが後々大きな事件となってわたしたちに降りかかってくることに、まだ誰も気付いていなかった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加