女王様

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ハルジオンはふたりでひとつの家と言ったけれど、用意されていた建物が余りにも大きくて、ロウンとリッドも同じ家に住むことになった。 ひとりにつきふたつの部屋。トイレやお風呂もそれぞれの部屋にある。食堂は二十人が一緒に食事ができる広さで、どんな大声で叫んでもお隣さんに聞こえないほどの広大な庭もある。 まるでお城だ。 わたしとリッドは玄関で呆然と立ちすくみ、眩く光る照明の華やかさと、敷き詰められたふかふかの絨毯を交互に見る。 そしてふたりして床を転げ回った。もちろんすぐにロウンに怒られたけど。 しかも、毎月生活に必要な物を買っても有り余るほどのお金がもらえるらしい。 「支給品だ」 ロウンはそう言うと、数冊の本と、大きな箱を四人分テーブルに置いた。 「これまでは与えられた住居が主な修練の場所だったが、それだと転生人を見つけるのは難しい。それで、明日から魔法士見習い全員集合での授業を行うらしい」 「それも女王陛下のお考えなの?」 「そうだ」 ロウンは支給品に添えられていたカードに目を通してうなずく。 「ロウンとハルジオンも授業を受けるの?」 「そのようだね」 ハルジオンはパラパラと本をめくりながら目を輝かせた。 「これはガネーシャ博士の本だ。しかも今まで見たことがない」 思わずハルジオンの手元を覗きこんだ。 ガネーシャの字で綴られた魔法理論の書のようだった。 リッドは大きな箱を恐る恐る開けて、中にある物を取り出した。 今着ているのよりは落ち着いた感じの服だ。 「明日の朝、この制服に着替えて集合だ」 ロウンはリッドの肩を勢いよく叩くと、それらを抱えてさっさと自分の部屋に戻って行った。 「アン、また後でね」 リッドも両手で荷物を抱えてロウンを追いかけて行った。 わたしの荷物はハルジオンが部屋まで運んでくれた。 「夕飯まではゆっくりするといいよ」 ハルジオンの部屋は左隣で、ロウンとリッドは階段を挟んで反対側にある部屋だった。 ひとりになると、森を出てここまでのことがまるで夢の中のように感じられた。 「部屋が広すぎて落ち着かない」 窓の外を見ても、懐かしい森は見えないし、話しかけてくれる鳥たちはいない。 耳を澄ませても、ガネーシャの揺り椅子のたてる音が聞こえない。 部屋にはたくさんの物が置かれているのに、何か足りない感じがする。 「あ、そうだ」 ガネーシャがくれた小さな家のことを思い出して、荷物の中からそれを取り出して机に置いた。 たった数日なのに、その小さな窓を覗くと、懐かしさに涙が込み上げそうになった。 それでも明日からの生活を考えると、楽しみに胸が弾む。 そうやってガネーシャのいない生活に慣れていくのだろう。でもこれからガネーシャの書いた本で勉強することを思うと、やっぱり今までと変わらず、わたしの世界はガネーシャを中心に回っているような気がした。
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