魔法士見習いたち

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カランカランと始まりを告げる鐘が鳴った。 みんなおしゃべりをやめて席に着く。 中央の演題にはまだ誰もいない。 窓のカーテンが一斉に下りて、室内が暗闇になった。 目が慣れてきた頃、部屋の端から端へと光が走った。 天井の辺りを光が次々と流れていく。 最近どこかで見たような光景だなと思っていると、壁に人の影が浮かび上がった。 少し明るくなった室内には、まだ光が無数に流れている。 やがてその光は一点に向かって集まっていく。その先には人の形をした影があった。 光は渦を巻いて人の影の中に入っていくと、その形を白く塗り替えていく。 動き出した影は、新たに浮かんだ人の影に重なると、まるで光が人から人へ移ったように色を変え、一回り大きくなった。 それを何度か繰り返して光は止み、演題にはいつのまにか赤いローブをまとった女性が立っていた。 そこに立っているということは、これから始まる魔法理論の授業をする先生、なのだろう。 そして今の光の魔法を見せたのもその人で、見慣れた姿よりはずっと若く見えるけれど、それは間違いなく、わたしのよく知る人だった。 「今日からおまえたちに魔法理論を教える。私の名はガネーシャだ」 なぜここにガネーシャが? 来るなら一言教えてくれれば良かったのに! そういうところがやっぱりガネーシャだ。ひとり心の中で驚く私をよそに、ガネーシャはこちらを少しも見ずに授業を始めた。 「今見せたのが何か分かる者はいるか」 ハルジオンがさっと手を挙げて答える。 「転生人ですね」 「そうだ。わたしが最初に教えるのは転生人についてだ」 ざわざわと囁きあう声が広がる。魔法士見習いたちのほとんどは転生人という言葉さえ聞いた事がないようだった。 「転生人は人の記憶を取り込みその人間になりすます。体と記憶を奪われた人間は死んだのと同じだ。転生人とは異世界からやってくる意識体であり、その多くは異世界で肉体の死を迎え、この世界で別の人間として生きるためにやってくる。我々は知らぬ間に体と記憶を奪われる。我々は転生人から身を守る術と、対処の術を学ばなければならない」 「それって本当のことですか?」 魔法士見習いのひとりが立ち上がって質問する。 ガネーシャは「現に起きていることだ」と答え、さらに説明を続けた。 「異世界からくる意識体の全てが悪意を持って我らの体や記憶を奪おうとしているのではない。知らぬ間にこちらの世界へ送られ、帰る術が分からずに、やむを得ず入り込んだ人間の内に留まっている者もいる」
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