鳥たちの向かう場所

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鳥たちの向かう場所

「アン、今の……」 木の枝が揺れ、鳥たちの鳴き声が飛び去っていく。その羽ばたきの音もちゃんと聞こえる。 それなのに、空に鳥たちの姿は見えない。いくつかの淡い光の筋が一方向へ伸びている。その光はマイの体から出てきた時のエミの光の色に似ていた。 「あの子たちを追いかけなくちゃ」 咄嗟にそんなことを思ったけれど、空を飛ぶ鳥を走って追いかけたところで、すぐに見失ってしまう。でも、あの透明な鳥たちがどこに向かうのか、それを確かめなければならない。なぜだか分からないけれど、強くそう思っていた。 鳥たちは何らかの魔法であんな姿にされている。それは微かに残る魔法の残滓で分かる。 誰が何のためにそんなことをしたんだろう。転生人と何か関係があるんだろうか。 「俺が行って確かめる。アンは先に家に戻ってて」 リッドはそう言うと狼に姿を変え駆け出した。 「リッド……!」 銀色の毛並みは丘の上に瞬く間に駆け上がり、その向こうへ消えていった。 リッドの足ならわたしが追いかけるよりはずっと速いだろう。でもハリアールの外へ飛んで行ってしまったら、それ以上追いかけてはいけない。 リッドが無理をしないといいけれど……。 リッドの駆けていった方向を祈るような気持ちで見ていたわたしは、すぐそばに人がいることに気づかなかった。 「あれを見てどう思った?」 突然耳もとで話しかけられて、わたしは驚きのあまり振り返りざまに両手を相手に向かって突き出した。 いきなり体に触れそうなほど近くに来るなんて、こわすきる。 魔法を使いそうになったけど、さっきリッドにここでは魔法はあまり使わない方がいいと言われたばかりだ。 突き飛ばして距離をとるつもりが、わたしの手は軽々と掴まれ引き寄せられてしまう。 両手の手首を痛い程の力で握られていて、身動きができない。 それどころか、ぐるりと回ったかと思うと背中を木の幹に押し当てられていた。 一瞬のことだった。数メートルの距離を魔法で移動させられたのだと分かった。こんな風に魔法を使い慣れている人がいるなんて、さすがハリアールだ。なんて感心している場合じゃない。 手首に加えて背中にも痛みが走る。突然現れて話しかけた上になんて乱暴なんだろう。 怖さもあるけれど、怒りもふつふつと沸いてくる。 その相手を精一杯睨みつけた。 「わたしに何かようかしら、タネン?」
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