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突然現れわたしの手を掴んで離さないのは、ミリアーナのチューターであるタネンだった。
長い前髪の下に隠れた目はよく見えない。
「鳥に興味があるみたいだから教えてあげようかと思って。アン、だっけ。新入りだよね」
「教えてくれるのは嬉しいけど、こんなふうに乱暴にされるのは好きじゃないわ」
わたしがそういうと、タネンはゆっくりと手を離した。
「君が知りたいのはもしかすると、鳥じゃなく転生人のことかな?」
わたしのことを探ろうとしているような問いかけに、わたしも慎重に言葉を選ぶ。
「さっきの授業の話?」
「もっと詳しいことだよ」
タネンはわたしの耳に顔を寄せて囁くように言う。
「もっと詳しいことって?」
「たとえばさっき飛びたった鳥は転生人に体を乗っ取られた鳥たちの魂だってこととか」
「……」
「転生人はどこからやってきたのか」
「……」
「最初の転生人は誰なのか」
「どうしてわたしがそれを知りたいと思うの?」
「だって君は仲間だろ?」
「仲間?」
「そう、僕と同じ転生人」
「違うわ」
「なら、何故さっきから僕と会話ができているのか説明できる? 今僕が使っているのは、この世界の言葉じゃないよ、アン」
間違いなく、タネンが女王陛下に捜索を命じられた転生人だ。
わたしはそう確信しながら、タネンの言葉に大きく気持ちを揺さぶられていた。
タネンの言ったことはどれも知りたいことばかりだ。わたしがタネンの言葉を理解できるのは、どんな生き物の言葉も理解できるという能力のおかげであって、転生人だからではない。
でもタネンがそう誤解してくれているなら、今は話を合わせておいた方がいいかもしれない。
「あなたの望みは何? わたしに秘密を教えてくれる代わりに欲しいものがあるんじゃない?」
タネンは嬉しそうに笑いながら、前髪をかきあげた。
「思ったとおり、君は聡明だね。……俺の欲しいものは」
タネンは再びわたしの耳に顔を寄せて囁いた。
「ハリアールで一番優秀な魔法士」
その言葉に、すぐに頭に浮かんだのはロウンの顔だった。
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