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それでもガネーシャは本に出てくるどんな挿絵のお姫様よりも綺麗だと思う。
わたしはと言えば、冴えない茶色の髪と瞳。髪は今までに切ったことがないからお尻の下まで伸びている。そのせいで背が伸びないんじゃないかと最近は思い始めている。髪に栄養を取られすぎているのに違いない。
暖炉の上で湯気をあげる薬缶からカップにお湯を注いで蜂蜜湯を作る。青いカップはガネーシャの前に、わたしは赤いカップだ。
フゥフゥとカップの中の蜂蜜湯を冷ましながら、自然な風を装ってガネーシャに話しかける。
「新しい本を買いに行かない?」
ガネーシャは眼鏡を外してわたしをちらりと見た。
「寒いから嫌だね」
そんな素っ気ない返事に屈していては、冬が始まってしまう。
「今行かないともっと寒くなるよ」
わたしは少し声を大きくしてガネーシャに発破をかけてみる。
「行かなくても良くなるかもしれないじゃないか」
面倒臭がりのガネーシャはなかなかうんと言わない。
「冬に読む本が無くなっちゃうよ。それとも誰かが新しい本を持ってきてくれるとか?」
ガネーシャはハッと鼻で笑っただけで、蜂蜜湯をすする。ここに誰かが訪ねて来たことなどない。万にひとつの可能性に期待を込めて言ってみただけだ。
「もぅ、それならわたし一人で行ってもいいけど?」
これは試しに言ってみただけ。一人で街に行かせてもらったことはない。
この後に続くのは外がどんなに危険かっていうお決まりの文句だって分かっている。
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