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幼なじみがいる。
名前は【羽鳥千季】
社交性はゼロ。正義感は強い。
高校でハブられて、ハブられながらも高校は卒業したが、引きこもり真っ最中の幼なじみが。
彼女との出会いは幼稚園まで遡り、母親同士がいわゆるママ友になったのが始まりだった(らしい)。小、中学は一緒でよく登下校を一緒にした。
暖かい春の陽気の中ではしゃぎながら学校に向かった日もあったし、雨の中、ビジョビショに濡れて登校して担任が濡れ鼠みたいな2人をみて唖然とした時もあった。雪の日は雪まみれで家に着いて、親から「あんた達は…」とため息をつかれたことだってある。
仲はすごく良かったと思う。
ただ少しずつ環境も、考え方も、自分のあり方も変わっていって、高校にはいる頃には、学校自体は一緒だったけど、ちょっとずつ距離ができた。
ここで、突然だが、僕の話をしようと思う。
【茅野碧】、それが僕の名前で、僕なんて一人称を使っているけど、戸籍上は女になっている。僕は僕の性別がよく、分からない。女だと言われても、違和感があって、かと言って男だと言われてもしっくり来ない。トイレだって、風呂だっていつも何か、違う。違和感を感じて生きていた。
そして、この違和感を最初に打ち明けたのが両親でもなく、千季で。
僕にとっては一世一代の告白だった。手に汗はかくし、言葉も何度も「えっと」とか「その」とかを繰り返していた気がする。
それでも千季は話終えると笑って「碧は女の子でも男の子でも碧だよね」と言って受け入れてくれた。
「ああ、千季に打ち明けて良かった」と心底思ったし、心に積もった重荷がドッと取れたような気がした。
高校は制服を自分で選べる所に進学した。
中学までは違和感を感じて毎日着ていたセーラー服からおさらばして、ブレザーにスラックス。
せめて女らしくと母親に言われて伸ばしていた肩口まであった髪もショートにした。
一見すると男に見えなくもない。
そんな姿の僕を見て千季はカッコイイと笑ってくれた。ちなみに千季とは運良く、同じクラス。
高校生活が始まり思ったことは、制服が自由と言っても、突っかかってくる、よく分からない輩はいるという事だった。入学早々に一部からは〈女男〉なんて呼ばれて。
自分の好きな格好をして何が悪いのかと思ったけれど、相手にするだけ無駄だと思って放っておいたら、それにキレたのは千季だった。
いつもの様にヒソヒソと〈女男が〜〉とかそんな嫌味が聞こえてくる昼休み。
仲がいい子同士で固まって昼食を取っているときだった。
僕と偶然、いつも嫌味を言ってくる子の肘がぶつかった。
「あ、ごめー「うわ最悪、女男が伝染るわ〜」」
その子の取り巻きはケラケラと笑っていて僕もいい加減しつこいなと思いながらもごめんね、と謝ろうとした時だった。
嫌味を言ってきた子が吹っ飛んだ。
文字通り、僕の横を。
周りの机を巻き込んで盛大に。
キャーーーっと叫び声が上がる。
廊下側の窓に野次馬が集まる。
唖然と横を見ると、千季がグーを構えて立っていた。
「千季…?」
肩で息をする千季に僕は恐る恐る声をかける。
「…碧のこと、いつもいつも女男とかいい加減にしろよ…」
地を這うような声に思わず僕も後ずさる。
「な、何すんのよ!!」
殴られた子も殴られた頬を抑えながらキッと千季を、睨みつけるけど、彼女の取り巻きたちは完全に巻き込まれたくないようで距離を置いていた。
「何するじゃないよ!碧がアンタに何したのよ!
碧がアンタになんかした?!一々一々コソコソコソコソとさぁ!」
「そ、そんな格好で女なんだか男なんだかわかんないようなのが悪いんじゃない!」
彼女は負けじと千季を睨む。
どっちも一向に引かなくて、僕のせいでこうなっている身としては非常に申し訳なかった。
平行線かと思ったさ中、バタバタと走ってくる音が聞こえて、ああ、誰か先生呼んだな、って。
「何してんだ!」
飛び込んできた教師の目に映った加害者はあきらかに千季だったのだろう。
「お前か!ちょっとこっち来い!」
千季の手を掴んでその教師は部屋を出ていこうとする。
僕は千季の掴まれている方とは反対の腕を咄嗟に掴もうと手を伸ばすーー。
伸ばした手は空を切る。
僕の目に映った千季は笑っていた。
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