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「じゃあ、送っていくな。
それで俺が勝手に連れ出したんだ、茜は悪くないって説明してやるから心配しなくていい」
その気なのか、彼は会ったときのスーツ姿になっていた。
この人はどこまで素敵な人なんだろう。
ああ、こんな一時の仮初めの恋じゃなく、本当にこの人と恋がしたかったな。
しかしそれは、私には許されないのだ。
「あの。
送ってくださらなくて大丈夫ですので。
ひとりで、帰れます」
もう、十分に迷惑をかけている。
なのにさらに、父に罵倒され、もしかしたら暴力も振るわれるような目には遭わせられない。
「本当に大丈夫か?」
眼鏡の下で、彼の眉間に深い皺が刻まれる。
そこまで私を心配してくれるのが嬉しくて、胸が詰まっていった。
「はい、大丈夫です。
これは私の意思で、私がやったことです。
だから、コマキさんには責任がありません。
お気遣いありがとうございます」
彼を安心させようと、できるだけの顔で微笑む。
それを見て彼は、小さく息を吐き出した。
「わかった。
じゃあ、健闘を祈る」
笑った彼が私に拳を突き出してくる。
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