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どういう意味か一瞬考えて、私も拳を作ってそれに付き合わせた。
コマキさんは玄関まで私を送り、タクシーに乗せてくれた。
「なにからなにまで、本当にすみません」
「いいって。
俺は茜の、ささやかな願いを叶えてやりたかっただけなんだから」
慰めるように軽く、彼が私の頭をぽんぽんと叩く。
「とっても楽しい一日でした。
それに……無理なお願いまで聞いてくださって。
本当にありがとうございました」
精一杯の気持ちで彼へ頭を下げた。
顔を上げると眼鏡越しに、コマキさんと目があう。
「だからいいって。
俺は茜を愛しているからな」
悪戯っぽく彼が片目をつぶってみせる。
それで頬が熱くなった。
「それじゃあ……」
「茜」
コマキさんが上半身をタクシーの車内に入れてくる。
そのまま、私の耳もとへと口を寄せた。
「……きっとまた会える」
「え……?」
小さく呟き離れていく顔を、ただ見つめる。
「コマキ、さん……?」
「運転手さん、出してください」
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