第二章 楽しいワルイコト

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どういう意味か聞こうとしたが、まるで封じるかのようにタクシーの屋根を軽く叩き、彼が促す。 すぐに彼が離れ、ドアが閉まってタクシーは走り出した。 ……なん、だったんだろう? もし、また会えるのなら、こんなに嬉しいことはない。 たとえ私が、どんな立場になっていたとしても。 でも、そんな可能性はきっとゼロだ。 「楽しかった、な……」 本当にこの一日、今まで生きてきた中で、最高に楽しかった。 最後に、あんな体験まで。 また籠の中の生活でも、この想い出を胸に生きていける。 そっと、コマキさんと拳をあわせた右手を握り込む。 いくら強がってみせても、父からの叱責はやはり怖かった。 しかしコマキさんのアレで、彼から守られているような気持ちになれた。 これなら怒鳴られようときっと平気だ。 「さようなら」 さようなら、私の自由。 さようなら、初恋の人。 もうこれで、未練なんてない。 ――なんて感傷に浸っていた一週間後。 なぜか私はコマキさんと再会していた。 しかも、私のお見合い相手として、ホテルのレストランの個室で。
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