第二章 楽しいワルイコト

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「はじめまして。灰谷(はいたに)(けい)です」 彼はことさら〝はじめまして〟と強調して爽やかに笑ってみせたが、どこからどう見ても胡散臭い。 そもそもなんで、正体を隠して私を知らないフリをして、コマキなんて名乗っていたんだろう。 もしかしてお見合いの前に、私と一緒で相手の情報を一切入れなかったとか? 「は、はじめまして。城坂(しろさか)凛音(りおん)、……です」 彼に引き攣った笑顔で応える。 あの日のあれやこれやが思い出され、今すぐこのテーブルの下に潜り込んで隠れたい気分だ。 「私の妻になる女性がこんなに可憐な方なんて、光栄です」 「うっ」 さらににっこりと微笑みかけられ、息が詰まった。 もう彼は私が、諦めの悪いお転婆娘だと知っているのだ。 ……そんなわざとらしく言わなくたって。 無言で彼へ抗議の目を向ける。 そのまま、続いていく話に適当な相槌を打って聞いていた。 あの日、おそるおそる家に帰ったものの、父からは想像したほど怒られなかった。
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