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「はじめまして。灰谷炯です」
彼はことさら〝はじめまして〟と強調して爽やかに笑ってみせたが、どこからどう見ても胡散臭い。
そもそもなんで、正体を隠して私を知らないフリをして、コマキなんて名乗っていたんだろう。
もしかしてお見合いの前に、私と一緒で相手の情報を一切入れなかったとか?
「は、はじめまして。城坂凛音、……です」
彼に引き攣った笑顔で応える。
あの日のあれやこれやが思い出され、今すぐこのテーブルの下に潜り込んで隠れたい気分だ。
「私の妻になる女性がこんなに可憐な方なんて、光栄です」
「うっ」
さらににっこりと微笑みかけられ、息が詰まった。
もう彼は私が、諦めの悪いお転婆娘だと知っているのだ。
……そんなわざとらしく言わなくたって。
無言で彼へ抗議の目を向ける。
そのまま、続いていく話に適当な相槌を打って聞いていた。
あの日、おそるおそる家に帰ったものの、父からは想像したほど怒られなかった。
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