第二章 楽しいワルイコト

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きっと、大事な見合いを勝手に抜け出して、激しく叱責されると思っていたし、覚悟もしていた。 もうそれは、自分が悪いってわかっている。 しかし、なにも言わずに、しかも携帯まで置いていなくなったことについて、心配するから二度としないようにと注意されるだけに終わった。 朝帰りのお咎めもなしだ。 こんなの、反対に気味が悪い。 けれどなにか言って思い出したかのように怒鳴られるのも嫌なので、黙っておいた。 さらに先方も急に都合が悪くなったらしく、土壇場で延期になったと教えられた。 もしかしたらそれで、あまり叱られずに済んだのかもしれない。 こうして一週間後、改めてお見合いとなったわけだが、なぜか私の前には灰谷炯という名のコマキさんが座っている。 ……もしかして、よく似た他人とかないよね? はじめましてって言っていたし。 よくよく自分の前に座る人物の顔を見る。 上部が太いメタルハーフリム眼鏡も長めのスポーツカットも同じだが、それだけで判断してはいけない。 けれど何度見てもその顔はあの日、私を連れ出してくれた彼そのものだ。
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