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「えっと……。
コマキさん、ですよね?」
スタッフが下がり、ふたりきりになって切り出す。
けれど彼はじっと私を見つめるだけでなにも言わない。
もしかして本当に、他人の空似?
なんて不安になり始めていた頃。
「……ぷっ」
噴き出す音がして、俯きかけていた顔を上げる。
「はははっ、ははっ、なんだよ、その顔!」
凄い勢いで笑い出した彼を、唖然としてみていた。
というか、あまりに大きな声だから周囲の人たちに注目されていて恥ずかしい。
「あのー……」
「あー、もー、俺の思惑どおりって顔してて、見合いの最中、笑わないように我慢するの、大変だったんだぞ?」
「はぁ……」
彼は笑いすぎて出た涙を、眼鏡を浮かせて拭っているが、私には笑える要素なんてひとつもない。
「改めて。
コマキこと灰谷炯だ。
これからよろしくな」
差し出された右手を少しのあいだ見つめたあと、その手を握り返した。
「東城茜こと城坂凛音、です。
こちらこそよろしくお願いします」
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