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そのタイミングで頼んでいたものが運ばれてきて、慌てて手を引っ込めた。
「というか、知ってて黙ってたんだとしたら、意地悪です」
上目でじろっと、抗議を込めて彼を睨む。
「だから『また会える』って言っただろ?」
「それは、そうですけど……」
炯さんは涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。
アレでわかれと言われても、無理がある。
「凛音、俺が見合い相手だと全然気づいてないみたいだったからな。
だから、正体を隠してた。
すまん」
散々私をからかって気が済んだのか、彼は真摯に私へ頭を下げた。
「いえ……。
なにも知らなかった私も悪かったと思いますし」
せめて相手の顔写真くらい見ておけばよかったのだ。
そうすればこんな事態にならなかった。
しかし、もし彼がお見合いの相手だと知っていたら、悪いことがしてみたいなんて私の望みを話さなかった自信もある。
なら知らなくてよかったのかといえば、複雑な心境だ。
「許してくれるのか」
「はい」
「よかった」
顔を上げた彼が、眼鏡の下で目尻を下げて人なつっこくにぱっと笑う。
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