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早朝、卵探し競争
あちこちで雄鶏が鳴いている。
中庭に放し飼いにされているニワトリは全部で百羽ほど。めんどりは朝になるとあちこちに好き勝手卵を産む。
庭木の根本、草むらのなか、水壺の陰。適当に探しても卵は見つけられるけど、卵の声を聞くスキルを生かして「存在を感じとる」鍛練らしい。
ちなみに開始早々、次々と卵を見つけたのはカラザ君とメンブランさん。
「うぉおお! 俺が脚力で見つけるから指示をくれ!」
「はいっ、たぶんそのへんだよー!」
カラザ君は朝から全力ダッシュ。体力バカなので勝負に強い。
メンブランさんが探知してカラザ君が走る。まさに息のピッタリなゴールデンコンビだ。
つぎはランブル君とヨークさん。同郷の幼馴染みだという二人は息もぴったり。「右だ」「左よ」「後ろ」「前ね」と四方八方、自然に分担して、完全なる二人一組で効率良く集めてゆく。
フライドさんとポーチドさんの女子コンビはきゃっきゃと楽しげで「雌鳥さんの気持ちになって探しましょ!」と楽しみながら次々に見つけてゆく。
「こけっこー、卵産みたい」
「わかる、ここで産みたい……見つけた!」
「あの子たち卵の声を聞いてないわよね!?」
オムレットはフライドさんとポーチドさんにツッこむけど、そんな場合じゃない。
僕とオムレットは最下位を競っている。
競っているのは、なんと貴族階級エリートの二人組。ボイルド様とベネティクトさんコンビだ。
「ははは、どうも朝は苦手でね」
「私も血圧がひくくて、うふふ」
本当は優秀な二人組なのに、朝の動きはおっとりと優雅。まるで散歩でもしているみたい。そもそも地面に膝をついてまで探す気が無いみたい。
「ありましたわ、こちらに」
「おや、とても良い卵だね」
二人だけ空気が違う。見つけた卵を手に、ニコニコと眺めていらっしゃる。本物の貴族階級は醸し出される雰囲気と余裕が違う。
それにひきかえ、地方貴族出身だというオムレットは……。
「ほらシェル、キリキリ走って、見つけるの! 耳に集中なさい! 先を越されたら承知しないわよ!」
「わかったから静かにして」
うるさい。卵の声が聞こえない。
集中すると……聞こえた。
ピヨ……とは鳴いてないけど、ヒヨコになりたい卵の声だ。
「たぶん、あの草むらのあたり」
「でかしたわシェル!」
「はっはー、俺が先に頂きだッ!」
「あっ!?」
オムレットが向かう草むらに、ランブル君が走り込んできて卵をとった。
ランブル君はいつも要領が良くて、先生ウケもいいし、そつなくこなすタイプ。でもちょっとズルイ時もある。
「あはは、シェルってどんくさっ」
ランブル君の相棒、ヨークさんちょっと口が悪い。きつい一言が突き刺さる。
「もうっ! なによアンタら、それはあたしたちの卵よ!」
「はやいもの勝ちだろ」
「そうよ、カッカしないで、オムレット さ ま あはは!」
「ぐぎぎぎ!」
オムレットの頭に血が昇ることを狙っている。これじゃ得意な卵検知スキルも狂う。
心乱されるオムレットと僕のコンビは後れを取った。
結局、僕らと同数の3個を集めた貴族さまコンビが最下位となった。
「ふむ? 最下位は二組か」
先生はカゴの中の卵をじっと見つめ、
「同数だがシェルとオムレットを最下位とする」
と言った。
「えぇえ!?」
「なんで!?」
貴族さまコンビも同数で一緒にトイレ掃除当番かーなんて仄暗い愉悦を感じていた僕に天罰が下ったのか。
「シェルとオムレットが拾った卵、これは昨日の卵だ! 新鮮なものを見つけたほうを勝者とする。以上! 今日の掃除当番はシェルとオムレットだ」
先生はそういって分厚い胸を張った。
「すまないね二人とも」
「あらあら」
貴族コンビは優雅に微笑む。
「「えぇええ!?」」
なんだか納得いかない。
本当に新鮮か確かめようがないし。
これぜったい、上級貴族への忖度ってヤツだ。
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