竜のたまごの見分けかた

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竜のたまごの見分けかた

『魔法の力が欲しいか……?』  大きな卵の中から声がした。 「聞こえたわ、竜の声! シェルも聞こえたでしょ!?」  オムレットが歓声をあげた。栗色の前髪をすかして目をキラキラと輝かせる。 「聞こえたね」 「これは間違いなく本物の『竜の卵』ね!」 「しっ、静かに」  たしかに卵の中から声が聞こえた。  けれど油断はできない。  悪魔かもしれない。  ヤツらは嘘をつく。  嘘で僕らをだます。  欲しいものをくれる、助けて、あなたが好き、そんな事を囁きながら。  悪魔は世界に生まれるためになんだってする。竜の卵に寄生して、竜のフリをして生まれたがる。  竜、ドラゴンは尊き存在で魔法を僕らに授けてくれる。  世界の調和を保ち、恩恵と秩序をつくる。  魔法の世界ドラグガデア。  その名が示す通り、竜の庭で人間たちは暮らしているようなもの。魔法も秩序も上位のドラゴンたちの存在に支えれられている。  ……って、先生は言っていた。  もし竜ではなくて悪魔が生まれたら。  それは大変なことだ。  人間を困らせ、殺す。疫病を流行らせ、災厄を撒き散らす。 「試験なんだから慎重にいこうよ、オムレット」 「慎重にしてるじゃないの! シェルの臆病者」 「はぁ……」  指先で卵の殻に触れてみる。  中からかすかに生き物の気配がする。ここ数日以内に卵は孵化するだろう。 「絶対にこれは本物のドラゴンよ、優しい声だったもの」 「うーん? どうかなぁ」 「何よ、シェルったら」  ぷくっとオムレットはほっぺたを膨らませた。生まれは地方貴族でよいところのお嬢様だったらしい。貧しい田舎で狩りをして暮らしていた僕とは考え方も性格もまるで正反対だ。  僕と彼女は机に向かい合っている。  相棒、バディ。  竜の卵を鑑定するために、魔法学校が決めたふたりひと組になる必要がある。  そしてここは封印の間。  万が一悪魔が生まれても外に逃げられない、聖なる魔法で装甲された場所だ。  薄暗い部屋に僕らは二人きり。  魔法円が壁や床にびっしりと描かれた部屋は狭く、窓は無い。魔法の結晶石が淡い輝きを放ち、唯一の出入り口は外から封じられている。  僕らがこうして「竜卵鑑定の儀式」を行っている間は開かない仕組みなのだ。  目の前には卵がひとつ。  銀製のエッグスタンドに乗った卵は、淡い緑色でザラザラした手触り。ニワトリの卵の三倍ほどの大きさ。  これは『竜の卵』つまりドラゴンの卵……のはずなんだけど。  本物だと断定できない。見た目はそっくりでも中身が「悪魔」かもしれないから。 「悪魔は僕らに嘘をつく」 「わかってるわよそんなこと」  オムレットだってわかってる。  魔法学園ヒヨランドの竜学生(りゅうがくせい)なら誰だって知っている常識なのだから。
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