相棒、オムレット

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相棒、オムレット

 僕は思いきりハンマーを振り下ろした。 『おっ……おのれ人間めがッ……ゴギャッ!?』  卵は一撃であっけなく砕け中身が飛び散った。  竜の卵に寄生している「悪魔」を砕くことができるのは、聖銀のハンマーだけ。  ドロリと中から溢れ出たのは紫色の粘液だった。 「ひぇ!?」  そこには無数の目玉みたいなものが交じっていて、あまりの不気味さにオムレットが悲鳴をあげた。  目玉どもは恨めしげに僕をギロリと睨んだけれど、空気に触れると溶け、シュウシュウと黒い霧となって消えてゆく。毒薬のような臭いに後ずさると、周囲の魔法円が空気を浄化してくれた。 「ふぅ……」  これでよし。竜の卵はニセモノだった。  中身は「悪魔」が寄生し汚染されていた。   「シェル、よくやったわ!」 「ありがと……オムレット」  まったく調子いいんだから。  ぼくら竜学生が二人一組で竜卵鑑定をする理由。  一人では悪魔の甘言に惑わされ、騙されやすくなる。  三人以上いる場所で竜の卵は声を発さない。もちろん悪魔だって話さない。  だから二人。バディを組んで卵と対話する必要があるからだ。 『オムレット、シェル、試験完了!』  ガチャリ、と『竜卵鑑定室』の鍵が外から解除される。  悪魔に寄生された『竜の卵』も先生たちが作った精巧な「偽卵」だ。 「悪魔だったわね!」  オムレットはケロッとしている。  最初は「絶対に竜よ!」なんて言っていたくせに。 「オムレット……」 「もうがっかり! この一週間ずっと温めたのにっ!」  僕の話なんて聞いちゃいない。  あーぁと背伸びするとオムレットは開いた扉からすたすたと外へと出てゆく。 「しかたないよ、本番もこの調子でいこ」  気持ちを切り替えていこう。  試験に合格すればいよいよ、本物の『竜の卵』との対決が待っている。  暗い廊下には魔法の照明が灯されていた。 『悪魔反応無し、二人の退室を許可する』 「当然よ早く開けなさい」 「オムレット、魔法に言っても仕方ないよ」 「わかってるわ」  幾重にも厳重な分厚い石の扉があり、僕らが近づくと声を発しゆっくりと開いた。  これは魔法の防御隔壁。つまり万が一「悪魔」が生まれてしまった時、外に逃がさない仕組みなのだ。  廊下から出るとまばゆい光に目がくらむ。  荘厳な大講堂で、白き聖なる竜の彫像が出迎えてくれた。高い天井のステンドグラスから幻想的な光が差し込んでいる。  大勢の生徒たちが行き交う。  王立魔法学校ヒヨランド――。  ここが僕らはここで寄宿舎で寝泊まりしながら竜や魔法の事を学んでいる。右手に行けば教室や実習室。左側の廊下を進めば寄宿舎と、食堂。  もうすぐ夕方。  食欲をそそるいい香りがする。生徒たちの多くは食堂へと向かっている。 「お腹すいちゃった! 晩ご飯、トロッふわのオムライスが食べたいわ」 「え……えぇ?」  どんな神経してんの?  悪魔が腐らせた卵のドロドロ見たばかりなのに。 「なに? 悪魔の卵のこと気にしてんの? あんなのいちいち気にしてたって仕方ないわ」 「そ、そだね」 「ほら、行きましょ」  柔らかな手が僕の腕を引いた。 「うん!」  ふわりとプラチナブロンド色の髪を揺らしながら、すたすたと彼女は進んでゆく。  相棒、オムレット。  彼女の「鉄の心臓、鋼のメンタル」に僕はいつも振り回され……そして助けられている。 <つづく>
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