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人生逆転だって夢じゃない
◇
朝は雄鶏(おんどり)の大合唱で目が覚める。
王立魔法学校ヒヨランドの中庭には、沢山のニワトリが放し飼いにされている。学園の校章もニワトリなので深い意味があるのかと思いきや、食料と教材として便利だから……だとか。
「うーぅねむい」
朝は早くて辛い。
僕ら寮生は起き出して身支度を整え、まずは中庭に集合する。朝礼や運動やら訓示やら、そういうのはいいから寝かせてほしいのに……。
「おっはよシェル！」
寄宿舎の女子塔と男子塔が交わる廊下で、軽やかな足取りでやってきたオムレットと出くわす。挨拶代わりにばしんと背中を叩かれた。
「……おはよオムレット」
「ちょっと、寝ぐせ直ってないわ、ここ！」
「え……そう？」
頭の右横をぐしゃっと鷲掴みされた。
もう、ほっといてよ恥ずかしい。
「あたしが恥ずかしいの！」
「わかったから」
なんでオムレットが恥ずかしいさ。でも学園では二人一組「ツーマンセル」で行動する決まりになっている。
相棒(バディ)の恥は互いの恥！
相棒(バディ)は苦難を共にせよ！
相棒(バディ)と勝利の栄光を分かちあえ！
毎朝、この暑苦しい訓示を詠唱する。
男子同士や女子同士のバディなら気が楽なのに、余らない限り基本は男女の組み合わせなのだ。
学校の方針で「互いに緊張感を保つ」ためだとか。
確かに気は抜けないけど、正直いろいろやりにくい。
「見なさい！ あのボイルド様とベネティクト様の尊いお姿を！」
びし、とオムレットが廊下の先を指差す。
向こうを歩いている二人組。
竜卵鑑定学科のクラスメイト、ボイルドくんとベネティクトさんが歩いていた。
「ははは」
「ふふっ」
キラキラしている。
光の花びらを散らして歩くように華やかな二人組。
ボイルドくんのは同い年とは思えないほど大人っぽい。背はすらりと高くて肌は色白、金髪でおまけに瞳の色は誰もが憧れるブルー。貴族階級出身という彼は、誰が見ても「美少年」という感じ。
相棒(バディ)のベネティクトさんもお嬢様だ。
腰までの長さのあるプラチナブロンドの髪は綺麗て手入れが行き届いているのがわかる。お人形みたいな顔で透き通った空色の瞳。いつも穏やかな微笑みを浮かべている。
クラス女子や先輩女子たちのあこがれの的よ！ というのはオムレット談。
ふたりは中庭に差し込む朝日を浴びて思わず目がくらむ。
「まぶしい」
「お似合いよね。まるで王子さまとお姫様、将来は結婚するに決まってるわ！」
憧れのまなざしを向けるオムレット。
二人は仲むつまじく、肩を並べて寄り添うように歩いている。
「……なんでオムレットが言い切るのさ」
「女の勘よ」
「そういうもの？」
「とにかく、シェルもビシッとしなさい」
「そんなこと言われても……」
生まれたときからお金持ちで家柄も良い。そんな神様の祝福を受けた「勝ち組」みたいな人たちと比べられても困るんだけどな。
それに比べて僕は無い無いづくし。
でも――。
魔法学校の一年生である以上、同じスタートラインにいるはずだ。
竜の卵を鑑定し、竜と友達になって、魔法を授かれば……。
人生逆転だって夢じゃないんだから。
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