17人が本棚に入れています
本棚に追加
/390ページ
歩兵師団時代から仲間たちが口々に言ったB-PROJECTの話を思い出した。どれもウソみたいな話ばかりで、チャンヒョクは興味を抱かなかった。
康介は他の隊員と違って、一人部屋だった。というより、彼と同じ部屋だった隊員が先輩に直談判して部屋を替えたらしい。相変わらずの嫌われっぷりには慣れっこだ。
康介は少ない衣服、文庫本を並べたあとにベッドに寝転んだ。
(どこも一緒だな)
部屋の造りは、集団部屋だった歩兵師団時代より気楽だ。旧館なだけに、あちこちからカビの匂いがする。
彼はベッドに横たわり、文庫本を開いた。
歩兵師団の頃に身に着けた現実から逃げ出す方法は、別の世界に意識を向けること。本の世界は康介を色んな場所につれていき、色んな人間に出会わせる。
鳥かごのような閉鎖的な場所にいる現実との大きな違いだ。
誰も彼を否定しない。
誰も彼を傷つけない。
それに…誰も彼に興味を持たない。
「ここで食べてイイか」
食堂の一角で昼食をとっていると、チャンヒョクが向かい側にやってきた。
もちろん、彼を避けていた他の隊員が興味津々に彼等のやりとりを見ている。
(異端者…。違う。
異端者のふり。
俺に話しかける自分はすごいって思わせたいだけ。
俺が周りに与える脅威を利用しようとしているだけ。
熟…アホだな)
康介は頭の奥に閉じ込めていた修羅の感情が腕や足を支配する感覚に襲われた。
(恥をかかせてやろう)
康介の中の何かが囁いた。
次の瞬間、手は水の入ったコップを掴み、チャンヒョクの顔に水を投げていた。反動的にチャンヒョクは立ち上がり「うわ!!!!」と叫んだ。
冷ややかな笑い、冷めた目。
「何すんだよ、いきなり!」
チャンヒョクは康介の胸ぐらを掴んだ。康介はその手を掴み、捻り上げた。
「いっって!!!」
チャンヒョクから解放された康介はそのまま食堂から立ち去った。
最初のコメントを投稿しよう!