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もちろんチャンヒョクにも先輩たちからの指導が入った。そのあとに旧館で、一度も掃除したことがない便所を掃除させられることになった。康介にそれを言いつけるような度胸のある先輩がいなかったために、結局チャンヒョクだけの罰則になった。
「くせぇ…」
便器にこびりついた便はいつのものか分からない。旧石器時代のものなんじゃないか、チャンヒョクはそんな馬鹿なことまで考えて自嘲した。
「俺、何してんだろう…」
ボーっとしてしまうと、彼には毒だった。
いつでも頭の中で思い浮かべるのは、家族から敬遠された哀れな幼少期だ。
今は音信不通になった育手のムウイ師匠のことも思い出す。
道場のあちこちから香る汗と武具の匂い。
父親の口元にある、冷酷なほくろ。
兄の冷ややかな目。
母の困ったように寄せる八の字の眉。
額から落ちる汗の玉が目に入ったことで、我に返った。
「いってぇ…」
目をこすりながら便所から出ていくと、廊下に康介が立っていた。彼は掲示板を見ているようで、チャンヒョクには背を向けている。
「お前も同罪だぞ」
チャンヒョクの声に驚いて、康介は振り向いた。
「なにが」
ぶっきらぼうに言い返されムッとする。
「昼の騒ぎだよ」
「どう騒いだんだよ」
「俺に水をぶっかけたろ」
「お前がしつこいからだ。」
また康介が去ろうとする。チャンヒョクはモップの柄を掴んで、康介に背後から振りかぶった。
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