7人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日は、こっちに行ってみようか」
夕陽が中学校の校舎を黄色く染めている。この学校に来年から朱理ちゃんは通うらしい。そのせいか、最近は散歩でこちらのほうへよく来る。今日は中学校の裏にある森へ行きたいようだ。
我は彼女の行くところなら何処へでも付いていく、森だろうが山だろうが構わない。だが、行く手に妖しいモノがいる場合は別だ。
「どうしたのボンちゃん?」
我が急に立ち止まったことを不審に思い、朱理ちゃんが声をかけてリードを引っ張る。しかし、我は動かない。道の先にいるのは、団地にいる無害な思念体とは明らかに違う。最早この世に存在していないにも拘わらず、悪意に満ちた視線をこちらに向けている。
人か? いや、違う。もっと別の何かだ。眼とは別の感覚でその存在を視ると、人のような姿だが、似せているように感じる。
「行こう、ボンちゃん」
危険に朱理ちゃんを近づけるわけにはいかない。主の大切な姪御であり、我の大事な家族でもある。
我はこの場から離れることにした。あいつが追ってくるのなら、その時は別の対処が必要になるだろう。だが、できるだけ争いは避けたい。我、一人だけなら構わないが、しくじれば朱理ちゃんにも害が及ぶ。
「ボンちゃん、もう帰るの?」
我は来た道を戻り始めた。朱理ちゃんが嫌がらずに付いてきてくれたのは幸いだ。それに道の先にいたモノも追っては来ない。今日のところは、このまま家に帰るとしよう。
最初のコメントを投稿しよう!