鬼多見奇譚余話 梵天丸の日常

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「今日は、こっちに行ってみようか」  夕陽が中学校の校舎を黄色く染めている。この学校に来年から朱理ちゃんは通うらしい。そのせいか、最近は散歩でこちらのほうへよく来る。今日は中学校の裏にある森へ行きたいようだ。  我は彼女の行くところなら何処(どこ)へでも付いていく、森だろうが山だろうが構わない。だが、行く手に妖しいモノがいる場合は別だ。 「どうしたのボンちゃん?」  我が急に立ち止まったことを不審に思い、朱理ちゃんが声をかけてリードを引っ張る。しかし、我は動かない。道の先にいるのは、団地にいる無害な思念体とは明らかに違う。最早(もはや)この世に存在していないにも(かか)わらず、悪意に満ちた視線をこちらに向けている。  人か? いや、違う。もっと別の何かだ。眼とは別の感覚でその存在を視ると、人のような姿だが、似せて(・・・)いるように感じる。 「行こう、ボンちゃん」  危険に朱理ちゃんを近づけるわけにはいかない。主の大切な姪御であり、我の大事な家族でもある。  我はこの場から離れることにした。あいつが追ってくるのなら、その時は別の対処が必要になるだろう。だが、できるだけ争いは避けたい。我、一人だけなら構わないが、しくじれば朱理ちゃんにも害が及ぶ。 「ボンちゃん、もう帰るの?」  我は来た道を戻り始めた。朱理ちゃんが嫌がらずに付いてきてくれたのは幸いだ。それに道の先にいたモノも追っては来ない。今日のところは、このまま家に帰るとしよう。
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