温泉街にて

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 しかしクエンはずっと気になっていたことがあったので、微動だにせず蒸し返す。 「なぜ、お前は気脈から回復しようとしない?」 「あー、出来ないというか…。やれないことはないんだけど、修復が苦手でさ、ほら魔嵐とか…色々さ」  肩をすくめ、ヘラヘラと笑う。  そういえばエスメラルダでやり合った後に酷い嵐に襲われたことを思い出す。  夢魔から気脈は絶対乱さないよう教示されていたので、ランドールがそれをやらない・やれないということに驚いたが、自分が側にいるべきという確信も抱いた。 「なら、沿海州のやり方を遠慮する必要はないぞ。言ったろ、お前のやり方に歩み寄るって」  ランドールはまたクエンの肩を押した。 「魔力の補給についての話はやめ、やめ! なあ、覚えてるか? 都にいた頃は、僕のが歳上なのにいつもお前に教えてもらうばかりでさ。最初に教わった剣舞…」  クエンは肩に置かれたランドールの手を強く握った。ランドールは訝しげに首を傾げた。 「クロード様から聞いた沿海州のやり方…。今もよくわからない。沿海州は性に奔放でもけして不誠実ではないんだろ? エスメラルダでは家族以外にしないことを大事な友人知人でもするってだけ…。手に触れたり、強く抱きしめたり、挨拶で口付けしたり。それは性欲的なものではなくて…」  ランドールはふっと笑うと悪ふざけを企んでいる時の顔になる。 「昔みたいによく喋るね。今日は」 「お前はいつもそうやってヘラヘラ誤魔化す」  クエンは眉を寄せたが、ランドールが手を払わないのでそのままでいた。  こうして他人の手を握るなどエスメラルダの常識ではあり得ないことだったし、クエンには欲望があって後ろめたさもあった。しかし沿海州人ならこれが当たり前ならば文句はないはずだと手を離すべきかと揺らぐ気持ちを内心叱咤する。 「沿海州ではどうなんだ? 挨拶で口付けするなら、魔力の受け渡しくらい…」  いや、これは願望だ。意識のないランドールの口を吸ったことを正当化したいだけだ。浅ましいなとため息をついて、手を離した。  ランドールは少し意地悪そうな笑い方をしてクエンに顔を寄せた。 「へぇ、挨拶ならできるの? じゃあ、してみる? 口付け」  上目遣いで聞いてくる。
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