温泉街にて

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 もう何度か触れた唇が薄く開いて、湿った口内が少し見えている。  ドキッと胸が大きく一打ちして、血流が早くなる。  いいや、挨拶の話だ。クエンは魔力を与える時の仕事の気持ちになろうと思って目を閉じ、息を整えようとした。  軽く柔らかいものがそっと触れて離れた。  驚いて動けなくなる。もう一度触れてきて、ついばむようにされて堪らなくなった。  これは挨拶でも、魔力の受け渡しでもなく、本当の口づけだ。ランドールが自分を求めていると思った。  クエンはランドールを押し倒して、唇をむさぼる。  それだけでクエンの身体は昂ってきて、ランドールの太腿に押し付けた。 「ま、待って…お前って、性欲あったの?」  目を開けて見下ろすと、ランドールは青ざめていた。 「ごめん、ない、と思って、からかったんだ。絶対応じないと思って」  クエンは混乱した。ランドールは自分と性的な遊びをしようと誘ってきたのではないのか。沿海州人にとっては誰とでも平気にやる遊びなのではないのか。 「俺は餌を探しに行ってくるぞ。イライザとティナにはしばらく戻らないよう言っておく」  ポルポルが話しかけてきて、その存在を失念していたことを思い出す。そして恥ずかしさがこみ上げる。  居た堪れず、寝台から降りようとするとランドールが手を掴んでくる。 「続き、する?」 「したいのか?」 「うん。気持ち良かった。せっかくその気になったんならさ、お前の精力をくれよ。満たしてくれ」  ランドールが微笑んできて、舞い上がる。  さっきの思い違いを繰り返すな。ランドールは自分を求めているのではない。所詮、遊びついでの回復の手段でしかないのだと、心の隅から声が聞こえても、堪らなく嬉しくなる。  また貪るように唇を合わせた。  自分の高ぶりを擦り付け、ランドールのそれも確かめようと手を当てる。 「待って、待って、口付けは良いけど、それはっ」  そこは汗ばんではいたが、とても、柔らかい。  クエンはなんと言うべきかわからず、固まるしかなかった。 「魔道に手を出してから精力は魔力の足しにしてきちゃって、実はもう何年も性欲なんてないんだ。稀に…いや、でも」  ランドールはすまなそうに言った。 「手足でいかせることは得意だよ。生業にしてたこともあるからさ、僕のこと汚いと思う。それとも、これで許してくれる?」  ランドールの手がクエンのものに触れて扱く。
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