火山の恩恵

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 クエンはムッとしながら起き上がろうとした。  しかし、酷く目眩がして諦めた。 「ランドールは?」 「大丈夫だ。魔力の回復にはもう少し時間が必要だが、もうじきお隣さんたちは出発する」  壁に手を当てる。この向こうにランドールが目を覚ましている。  会いたいと思ったが、まだその時ではないと思った。  手首に呪縛紐がないのに気付き、サイドテーブルにあるそれをみて、しばらく考えたのち巻き始めた。  騎士団を除隊になっても自分はまだエスメラルダの騎士として生きている。そこにケジメをつけなければならない。 「追うかい?」  無論だった。  ランドールは完治していないのだ。誰か魔力を補える者が常に側にいなければならない。 「ならば私が送ろう」 「少し時間をくれ。ちょっとで良い。自分で動けるようになる」 「わかった。馬車の支度を整えてくる。それまでにしないと追いつかなくなるぞ」  目を閉じて、地脈の力を探る。手繰り寄せて、太い気脈から細い糸を選り分ける。地脈を修復をしなくても問題ない量を少しずつ解いていく。  大きな力を一気に取り出すより体力が要らない。  一糸も纏わぬまま起き上がり、腕を回したり、屈伸をしてどれだけ回復できたかを確かめる。少し頭が重たく、動くと激痛を伴ったがふらつきはしなかった。着替え終えて編上靴の紐を締め上げているとアルフが戻ってきた。 「もう平気なのか?」 「まだ十分じゃないが、馬車の中でなんとかする」  アルフの馬車は大きかった。四頭立てで、箱の中は小さな部屋のようだった。  座椅子は長身の大人が余裕で横になれるだけの大きさがあり、サイドテーブルもあった。  手水もあって食卓もある。  アルフはそのテーブルに向かう椅子に座ってクエンに背を向けた。  クエンは言われることもなく座椅子に横になった。  そしてまた地脈を探る。今度はそこそこ大きな気脈を掴み、乱れさせた波を修復しながら取り入れていく。  あともう少し、と思ったところで嫌な予感がしてやめた。 「地脈に触れていたのか?」  アルフがクエンの身じろぐ気配に振り向いた。 「暴れそうでやめた。なんだなんだ?」 「魔術の心得のない私に聞くな。ま、火山が近づいたせいだろうな」 「火山?」 「ああ、ランドールの馬車は火山に向かっている」
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