火山の恩恵

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 クエンはアルフの顔をジッと見て、そして手首に巻いた呪縛紐を解いて、ズタズタに引きちぎった。 「そんなことをしたって、もう討伐隊は君の向かっている先を知っているよ」 「ランドールの居場所を知らせるのが騎士としての役割だった。もう向かっているんだろ? それなら、俺の義理は果たした。この呪縛紐には必要以上の力があった。こんな強力な魔力が長いこと維持されるような魔術道具を、大公お抱えの上級魔術師程度に作れるとは思えない」 「君は…夢魔に魔術の手解きをうけたのだね? すっかり魔術師みたいなことを言うじゃないか」  わかっていたはずだ。それをさも今気づいたかのように言っているように見えた。クエンはやはりこの男が嫌いだと思った。 「そう睨みなさんな。君の持たされていたのはポルポワズの手によるものさ」  ポルポワズ導師の名前は魔術に疎いクエンでも知っている大魔術師だ。  アルフ商隊は彼の死をもって解散したと聞く。 「ランドールはね、彼の魔力に匹敵する力を持っていてね。ポルポワズの後継者として私の手の者になるはずだった」 「はず?」 「あの子がかつてレントの父親殺しと呼ばれていたことも、ラズールのランドールという手形を与えられた経緯も君はクロードから聞いているだろう? 商人の私がなんの利益もなくそんな大掛かりな工作をすると思うかね?」 「クロード様に従者を与えるためだったのでは?」 「それはついでさ」  アルフはクエンから顔を逸らした。その横顔にはそれまでの微笑が消えていた。 「傀儡子使いを認める訳にいかない。それに…夢魔は完治させなかったのだろう? 虫が得意げに言っていたよ」  肩をすくめ、再びランドールに顔を向ける。 「今のランドールはポルポワズ導師ほどの魔術は使えない。その魂のヒビを完全に修復したなら、私は彼に手を貸すつもりだよ」  手を貸す。ものは言いようだ。自分の手駒として確保したいだけだろうと言ってやりたかったが、罵っても詮無いことと言葉を飲んだ。 「んふふ」  アルフは楽しげに笑ってクエンに背を向けた。
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