イースでの生活

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イースでの生活

差別が色濃く残るイースでも、フィガロの兄と弟はイースの大陸警備隊の末端兵として、第三二位に所属し、妹はフィガロは小さな食事処で手伝いをさせて貰っていた。 父と母の色味が縞模様に混ざっている妹は、配膳をメインに手伝い、黒猫のフィガロは耳と尻尾に白い染粉を使いグレーに装い、食材の下拵えや食器洗い等を行なっていた。 運悪く、その日は妹の接客中に重なったオーダーを、食事処の女将さんがフィガロに配膳させたのだった。 「ちょっと!! フィガロ!あんた暇なら、これを3番テーブルに運びな!!!」 「えっ、ぼ、僕ですか?!」 「さっさと行けってんだよ!!」 「はっ・・・はい!!」 慣れないながらも、フロアに出たフィガロに一瞬フロアの視線が集まる。 その結果。 バッシャ!!! カンッツ!!!! 勢いよく水と、木で出来たカップがフィガロに投げつけられた。 「よくも、うちの旦那に色目を使ったね!!!!! ただじゃ、おかないよ!!」 鼻息荒く顔を真っ赤にして、水をかけてきたのは猿獣人だろうか? その背後で、さっきまでフィガロの尻を触ろうと手を伸ばしていた、猿獣人の男がポリポリと頭を掻いていた。 「い、色目だなんて・・・。」 「ハン!どーだか!!!卑しい猫が、誘う様に尻尾なんて振って!!!」 真っ赤な顔をしていた猿獣人の視線が、フィガロの頭上に止まると、顔色がどんどんと青くなっていく。 「な、あんた!!その色!!!疫病神じゃないか!!!!!!!こんな店、二度と来るもんか!!縁起でもない!!」 「え。。。あっ。」 慌てて、自分の頭を隠すが、水をかけられたフィガロの耳は、染粉が落ち真っ黒な耳が動く。 猿獣人は捨て台詞と共に、全身を蔑んだ目で見て銅貨をテーブルに叩きつけ猿獣人は食事もせずに、出て行った。その騒動に奥から出てきた食事処の女将さんに、妹とフィガロはクビを言い渡されたのだった。 「ゴメン、ロマ。僕の所為で・・・。」 「ううん。お兄ちゃんの所為じゃ無いよ。」 妹のロマが、するりと茶色の尻尾をフィガロの腕にすり寄せながら、慰める。 フィガロもまた、妹の腕に自分長く黒い尾をすり寄せ、頭グリグリとこすりつけた。 「けど、明日からどうしようか・・・。」 あの食事処は、待遇はよく無かったが、フィガロにとっては最後の砦だった。 あの店は、まだ子供だった亭主が、第六次魔獣討伐の時に、フィガロの父に魔獣から助けてもらったのが縁で、成人した亭主が恩返しとして、店を紹介してくれたのだった。 フィガロの父は、この魔獣討伐で殉職し、部隊から家族に払われた僅かな見舞金で、細々と暮らしていたが、すぐに生活は困窮し、母は洋服店の針子。兄と弟も父と同じ大陸警備隊の末端兵として、働き出した。同じようにフィガロも家族の為にと、働き先を探したが、黒く長い尾に、黒い耳。そして金色の瞳に、スラリとした身体は、獣人の中でも小柄で、他者からの視線を集めた。それも、また猫獣人の持つ魅力でもあった。 差別の対象のイースでは揉め事の種でしかなかった。 元々、フィガロの両親はウエスに住んで居たが、第四次魔獣大発生がサウザで発生した時、身重だった母の為、イースへと避難してきたのだった。 その頃は、今よりももっと差別は酷かったが、父が大陸警備隊に入隊した事で、隊寮に入る事が出来、隊医に母を見てもらう事が出来た。 父が殉職するまで、フィガロ達はそこで穏やかに暮らしてこれた。 それが、今は町はずれの小屋で、妹と二人。兄と弟の帰りを待ちながら暮らしている。 「やっぱり、僕があの時誘いを断らなけば良かったのかもな・・・・。」 「はぁ!? お兄ちゃん、何言ってるの!あんな蛇野郎と番ったら最後よ!?」 「けど・・・、もし断らなかったら、寮にも居れただろ?」 「そうかも知れないけど、そうじゃないかも知れないじゃない!!それに、お兄ちゃんを犠牲にして 私達が幸せになんてなれないよ!」 ロマの言う、蛇野郎とは大陸警備隊第一部隊隊長の事だった。 元々は、フィガロの兄と弟が大陸警備隊として入隊してからは、隊寮の狭い部屋で兄妹暮らしていたのだが、兄弟の所属する末端兵の多い第三部隊とは別格のエリート部隊。第一部隊隊長が抜き打ち視察に来た事でフィガロ達は退寮を選ぶ事となったのだった。 第一部隊隊長の蛇獣人。 外見は、人型に近く。獣人として資質が低く見えたが、隊内でも、第一部隊長の嗜虐性は有名だった。それも、猫獣人を弄る事を生きがい噂され、その噂は第三部隊でも衆知の事だった。 それでも、末端兵の多くはフィガロ達の様に訳ありな者も多く、猫獣人も数人はいた。そのネコ獣人達とフィガロ達も共に行動するしていたが、共同洗濯場で洗濯をしていたフィガロに、前々から目を付けていたのだった。 降り続いた雨がやんだ晴れ間。 溜まっていた洗濯物を洗うためにやってきたフィガロは、後ろから羽交締めにされ、洗濯場の奥へと引きずり込まれた。 「にゃ?!!!」 「ああ、イイね。その声も・・・。」 チロチロと、フィガロの首筋を舐められる。 「!! あ、あの離して下さい!!」 「断ると言ったら?」 「お、大声出しますよ!!」 「出せばいい。ああ、ココも随分と可愛い色をしている。想像通りだ。」 ビッ!!っと、兄からのおさがりの粗末なシャツを首元から破り。白い肌膚に淡く色をのせた小粒が恐怖で震える。ヒヤリと冷たい指先にクニクニと片方の小粒は潰され、もう片方の手はフィガロを捉えて離さない。 元より、家猫獣人のフィガロは一般的な獣人よりも一回り小さいく、細身と言われている蛇獣人と比較しても、体格に差があり過ぎたのだった。 しっかりと抑え込まれ、背中にヒヤリとした男の体温をフィガロは感じていた。 首筋を舐めていた舌は、ふわふわとしたフィガロの耳に移動し、その感触を楽しみながら第一部隊長が囁いた。 「このまま私のモノになれば、お前達兄弟を優遇してやっても良いんだぞ?」 「!?」 「ああ、そう言えば第三部隊は確か、最前線へ送られるんだったな・・・。」 強く弄られ、左右色の変わった粒を満足げに眺めながら、脇腹と伝い鼠径部へと第一部隊長の手が這う。気持ち悪さに身を捩ろうとするが、体格差で叶わない。 「大人しく従えば、お前の兄達を後方部隊に下げてやっても良い。それに、あんな狭い部屋じゃなく、私の屋敷に住まわせてやろう。」 「ひっつ!!」 ギュッとフィガロ自身が握りこまれる。 「なんだ、随分と小ぶりじゃないか。もう成獣だろ?」 揶揄いを含む声とは裏腹に、フィガロを握る手は執拗に動いた。 「は、離せ!!!!」 フィガロが少しでも抵抗をみせれば、自身を握り込んだ手にギュッと力が込めら、身体が恐怖で竦む。それでも、フィガロは力の限り暴れ、そのまま獣化し、そのまま思いっきり左目に爪を立てたのだった。身を翻しながら、其の場からフィガロは逃げ、その場に蹲った蛇獣人を振り返り見る事は無かった。黒猫となって部屋に戻ったフィガロを見た、妹のロマはその日のうちに兄達に伝え、荷物を纏めたのだった。 案の定、兄弟は部隊内でも過酷な場所への配置と、寮の退去を命じられたのだった。
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