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フィガロの旅立
な、何!?え??
訳が解らず、振動に合せて身体を揺らすが、箱が開く事は無かった。
一体何が?・・・そ、そうだ!!
フィガロは、黒猫の姿に成ると縛られていた縄がほどけた。すると、目の前に小さな隙間が有ることに気が付いた。耳をすませば、従者達の声が聞こえた。
「しっかし、こいつもあの人に目を付けられて、気の毒にな。」
「そうかー? 猫獣人だっていうじゃないか。あの人の番に成れるなら、幸せだろうよ!!」
「そりゃ、違いねぇ! けどよ、蛇獣人の一物ってのは、オレらとも違うらしいじゃないか。あんな
のでヒイヒイ言わされて、毒でも使われた日にゃ、屋敷から出れないだろな。」
蛇?どういう事だ・・・?
「そういや、そろそろ起きるんじゃねぇか?」
「あー、もうそんな時間か?まぁ、いいんじゃねーか?別に、起きた所で箱からは出れないさ。」
「それもそーだな。あいつらも、飯なんか食わないでさっさと逃げりゃ良かったのに、馬鹿だよな」
「まぁ、オレりゃ的にはラッキーだったけどな。」
「だな!! 鍋に、睡眠薬入れるだけで連れ出せたしな!」
睡眠薬・・・???
!?!! まさか、あの時のスープに・・・?!
フィガロの肉球がジワリと汗ばんだ。
男達が、睡眠薬と言った事に、一瞬ホッとした。
したが・・・きっと、兄弟達はフィガロはサウザに旅だったと思うだろう。
だとすると、兄たちがサウザに着かない限り、フィガロとは連絡は取れないかも知れない。
いや、もしあの蛇の元に連れていかれてるのなら・・・。あれが最後の団らんだったのかと、胸が締め付けられた。脱げた服の上で、丸まり小さな隙間から外の様子を眺めた。
どうせ大人しくこの中にいても酷い目に遭うのなら、着いた瞬間にいつでも逃げれる様に獣化したままでいる事にフィガロはした。
通常、完全なる獣化は本能を制御出来ない状態に起こる現象だが、家猫獣人は獣化が自在に出来、何度でも何時間、何日でもその状態を保つ事が出来た。
「しっかし、討伐から帰ってきたばかりで、あの人も好きもんだよな。」
「ばっかかぁ~、むしろ、だからだろ! 散々魔獣を弄り殺しても、収まんないんだろよ。前の討伐の時もよぉ〜。娼館だか、孤児院だかで数人、見繕っては運んだらしいぞ。」
「うぇ・・・孤児院からもかよ。」
「ああ。あの人は、筋金入りの変態様だよ。そうじゃなきゃ、あんな所に屋敷なんざぁ、建てないだろうよ。」
?
あんな所・・・?
確か、第一大陸警備隊の管轄は市内で、寮も・・・。ああ、そうか生家は別なのか・・・。
ガタガタと、男達の話題も、雇い主の話から世間話に変わり、興味が無くなった、フィガロは段々と馬車の揺れが気持ちよくなり、眠ってしまっていた。
次に、目を覚ました時には、さらに状況が飲み込めないでいた。
え、え?? な、何コレ!?
馬車の荷台上部は、切り裂かれ青空が広がっていた。
フィガロの入っていた木箱も、引っ掻かれたのか、噛まれたのか・・・一部がはぎ取られていた。
いつの間にか、いた筈の声の主たちも姿が見えなくなっていた。
恐る恐る、フィガロは箱の外へ出て、荷台の帆の上へよじ登る。
何かの足跡がいくつも馬車の周りに有るのが解った。
ここまで、馬車を動かしてきた獣人の靴跡の他に、蹄の様な足跡。
そして、何かを引きずった様な跡と・・・赤黒い液体。
点々と残っていた跡の方へ、視線を向けると、何かかが吼えた。
その向こうに、小さく別の馬車が見えた。
フィガロは、言い知れぬ恐怖を肌に感じつつも、跡の方へと向かって走っていった。
はぁはぁ・・・。うっ・・く、臭い。
な、何?この臭い・・・!!うっ・・・げほっ・・・・。
嗅ぎなれない臭いに、思わず嘔吐きつつも、獣化したままフィガロは臭いの方へ近づいて行った。
グルグルル
唸り声が大きく成るにつれ、その正体が鮮明になっていく。
あ、あれが・・・魔獣!?ひっ!!!!
初めて見る魔獣に、対する恐怖から、逸らした視線の先は、きっと獣人であったで有ろう物体が無残にも散らばっていた。そして、それを貪るもう一体の魔獣。
ど、どうしよう! 魔獣が二体も!?
キョロキョロと辺りを必死に探すと、荷台の上から見えた馬車があった。
丁度、大剣を構えた獣人が馬車の方から駆けてくる所だった。
大剣を手にした、獣人の頭には白銀の耳に、剣を振り回転した背には、大きな尾が有った。そして、その動きに合わる様に、後で束ねられた銀髪が揺れていた。
回転と同時に、唸り声を上げ突進した魔獣は二つに裂け。死肉を貪っていた魔獣が、追撃するが、ひらりと銀髪が揺れる。それと同時に、断末魔をあげて魔獣が真っ二つになった。コトンと、赤黒い石が二個、其の場に落ちる。
その一部始終を、呆然と見ていたフィガロは慌てて止まっていた馬車の方へと走った。
一瞬、銀髪の獣人がこちらを見た気がしたが、構うことなくフィガロは走って、止まっていた馬車の荷台へと飛び乗った。
荷台には、色々な荷物が所狭しと積まれ、何とか奥の隅っこに隙間を見つける事が出来た。
ああ、もう疲れた・・・。もう、何処でも良いからゆっくり寝たい・・・。
隙間に緩衝材として巻かれていた布を咥えて引っ張り出し。その上に丸まった、フィガロは眠りについた。
しばらくすると、馬車が動き出したがフィガロはすでに夢の国へに行っていた。
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