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第72話:ボルテ視点で・・・
フィガロが連れ去られた、あの日。
ボルテが初めて獣化をした日。
ボルテの本能は、フィガロを番だと叫んでいた。
そして、「ラッキーキャット」がどんな目に合うのか、目の当たりにしたのだった。
あの館の地下では、魔獣と、元は猫科獣人だったであろう獣化した獣が繁殖をさせられていた。
別の部屋には、幻影魔獣が檻に入れられていた。
館の周りには、意図的に猫科獣人の嫌う匂いの植物が植えられていた。
その館の地下に、フィガロの外見を模した幻影魔獣人が何体も檻に仕分けられていた。
その檻は、父の眠る屋敷の地下にもあった。
目の前が赤黒く染まった瞬間、ボルテはフィガロの匂いを追っていた。
ワォォォォォン!!!!
そこからは、瞬く間の事だった。
いつの間にか馬車を取り囲む様に、魔獣の群れがボルテの声に反応すると、馬車に襲い掛かった。
「なっ!!! 貴様、この猫がどうなってもいいのか!!」
「グルルルル!!!!!ガウッ!!!!!!!」
馬車から、引きずり出された、アフィァーの手には黒い塊の入った鳥籠が握られていた。
ボルテが威嚇する様に吠えると、取り囲んでいた魔獣達がその腕に噛みつく。
「クッ!なんだ、この!!! うぁああ!!!」
腕ごと引き離された鳥籠を、ボルテが咥える。獣化を解くと籠を開け中からぐったりとしたままの黒い塊を抱き上げると、トクンと小さな鼓動が聞こえた。
「・・・フィー・・。」
「き、貴様!!!このままで、済むと思うなよ!!!!!!!!!」
「・・・煩いなぁ・・・。ガウッ!!!!」
その声に、魔獣達が一斉に飛び掛かる。
ボルテは横目に、再度獣化し警備隊の元へと戻った。
ガサガサと茂みから、獣化したままの姿でボルテが現れ、ボルクは片眉を上げながら、庭へと出た。
「・・・来ると思ってたよ。ボルテだろ?」
「・・・・・。」
その声に、反応するように銀狼は姿を人型へと変えていった。
「・・・・とりあえず、これでも巻いておきなさい。」
「・・・。」
手渡されたストールを、ボルテは腰に巻いた。
「ついに、獣化出来る様になったんだね。」
「・・・はい。」
「兄さんは喜んだんじゃないかな?」
「・・・・どうでしょうか・・・。父は、屋敷と共に燃えてしまったので・・・。」
「・・・そうか・・・。とりあえず・・・中に入るといい。」
「はい。」
服を借り、ボルクの私室へとボルテは通された。
「・・・叔父さん。お願いがあります。」
引き出しから、ボルクは隠してあった酒瓶とグラスをボルテの前に置いた。
「・・・ボルテ。解ってるんだろ?そうじゃない。」
「・・・。」
グラスに酒を注ぎながら、ボルクはボルテにも酒を勧める。
「・・・、私が戻るまで、ノーザを任せる。」
「・・・及第点ってとこかなぁ・・・。」
ガラスの澄んだ音が部屋に響く。
一口、酒を呷ったボルクは、ボルテに普段見せることのない真剣な表情を見せた。
そのまま、向かい合わせに座っていたボルテの前に片膝を付きボルテの手を取った。
ボルテの手を額に付け、誓う。
「このボルク、ボルテ様が戻られる日までこのノーザを命に代え守らせて頂きます。」
「・・・ああ。頼んだ。」
「うん。 じゃ、これをボルテに渡しておくよぉ~。」
「・・・これは?」
ボルクがパッと、表情を切り替え叔父の顔になると、ボルテの肩から力が抜ける。
「ここを出る、口実かな。」
「・・・あ、ありがとうございます。」
ボルテも、グラスの中身を飲み干すとそのまま一礼をし、部屋を出て行った。
一人残されたボルクは、空になったグラスに酒を注いだ。
「・・・馬鹿な兄さん。」
グラスを軽く合わせ、月明りへと掲げた。
「・・・ボルテ、ゴメンね。キミにばかり辛い思いをさせて・・・。」
それから、フィガロが目覚めるまでボルテの周囲は地獄の様な日々を迎える事をその時は思っても居なかった。
医務室へ運んだ時は、黒い塊のままだったフィー。
この状態が、猫科獣人が獣化した姿だと医者に教えられた。
転移者の記録に書かれていた姿絵は、もう少しおどろおどろしかったり、耳にリボンのついたオーバーオールを着ているようなモノだった。
「・・・やっぱり、記録と事実は異なるな・・・。」
眠ったままのフィーの頭を撫でると、ふわふわの毛がボルテの掌を擽る。
「・・・フィー、いっぱい話たい事が有るんだ・・・。」
チュッと寝ているフィーの鼻先にキスを落す。
「早く目覚めてね。フィー。」
「んんぅ・・・。」
ノックと共に、部屋にシュベールがボルクと医者を連れて入ってくる。
「ボルテ、ちょっと良いか? ボルク様が・・・、あっ。」
ボンッ
「あっ。」
キラキラとした粒子が舞った様に見えた。その瞬間、フィーの姿は人型になっていた。
はらりと、掛布が舞い、フィーの白い肌が晒される。
「ガウッ!!!!!!」
とっさに吠えてしまったボルテに、シュベール達は視線を反らす。
「・・・・今、何か、見ましたか?」
「・・・・み、見てません。」
「・・・今の事を誰かに・・・。」
「い、言いません!!!」
いつの間にか、シュベールを壁に追い込んでいたボルテを横目に、ボルクと医者はメイドに指示を出し、フィーに寝巻を着せていた。
その日から、フィーは中央で療養することになった。
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