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第73話
ドサッ・・・
訓練場で、最後の一人が膝を着く。
「はぁ・・・・。キミ達、そんな事でノーザが守れると思ってるのか?」
うっすらと汗を浮かべたボルテは、冷ややかにその場に蹲っている隊員達を見ながら、刃を潰した剣をしまう。
「まぁ、いい。今日は、ここまで。各々、この後の任務に支障をきたす事、無い様に。」
「は、はい!!」
隊員達を残し、ボルテは隊長室へと向かった。
部屋に入るなり、書類を見ていたグリズに開口一番に言われ、思わず眉を顰めてしまう。
「おう!ボルテ、あんま隊員達を虐めんなよ。」
「あの程度で、へばるような隊じゃないですよ。」
「そうだけどよ~。お前とじゃ、あいつらの体力が違うって事は覚えておけ。」
「・・・解りました。それで、要件は・・・?」
「あぁ・・・、ボルテ。」
ゆっくりと立ち上がったグリズは、扉の前に立ったままだったボルテの前に、片膝を着いた。
「なっ・・・!グ、グリズ隊長!!やめてください。」
「ノーザ国境警備隊を代表し、貴方様への忠誠を誓う許しを頂きたい。」
頭を下げたままのグリズに、ボルテの声色が硬くなる。
「グリズ隊長。顔を上げてください。」
「・・・・。」
頑なに頭を上げないグリズの意図に、ボルテも気付いていた。
前髪を掻き上げ溜息を一つ。
少し硬くなった声が出た。
「・・・はぁ・・・。グリズ、顔を上げろ。」
「はっ。」
「・・・許可する。日は追って知らせを・・・。」
「かしこまりました。」
スッと立ち上がり、敬礼をするグリズ。
視線を合わせ、軽くうなずく。
「はぁ・・・・・。これでいいですよね。」
溜息を付きながら、顔に手を当てたボルテに、グリズはにやりと笑いながら頷いた。
「早くオレ達を顎で使う事に慣れる事だな。」
「・・・・はい。 グリズ隊長・・・ありがとうございます。」
さっきまでの真剣な態度から、一転してグリズは巨体をもじもじとしながら、若干顔を赤く染めながらボルテに対して言いづらそうに、言葉を探していた。
「・・・所でだが・・・・。その・・・ボルテ・・・お前・・・その・・・・だな・・・。」
「・・・な、なんですか・・・もじもじと・・・・・。」
「そのだが・・・お前は・・、番との行為って言うモノを知っているのか?」
「・・・はぁ!?」
「いや、そのだな・・・前に、聞いた時、お前がキャベツ畑だの・・・ああ、フェイに聞いたんだっけか・・・?」
グリズの言いたい事に、思い当たったボルテの尾がゆらゆらと不安げに揺れる。さっきまでの態度とは打って変わり、今は年相応の顔を見せる。
「・・・・・だ、大丈夫です。その・・・指南書も読みましたので・・・。」
「そ、そうか!!」
「・・・・ま、まさか、これが本当の要件とか・・・。」
ボルテの尾がぶわりと逆立つ。
その気配に、グリズは慌てて否定をする。
「い、いや・・・ち、違うぞ!? 」
「・・・なら、いいですが・・・。それに、フェイさんが前に言った意味も、今回の件で理解出来たので・・・。」
ボルテの顔付きが変わったのを見たグリズは、複雑な心境ではあったが穏やかな表情を見せた。
「・・・そうか。それを聞いて安心したわ。今日も、行くんだろ?」
「・・・はい。」
「なら、彼が目覚めるまで、巡回後は直帰で構わない。」
「ありがとうございます。」
「ああ。 お前が居なくなると寂しくなるな。」
「・・・ちゃんと、帰ってきますよ。」
「・・・・ああ。」
グリズに見送られながら、部屋を後にした。
そう言って、半年。
フィガロがボルテにした「お願い」は、ボルテにとっては「願い」では
無かった。
フィガロの金色の瞳から零れる雫をボルテは指で拭う。
「・・・フィー。なんで、泣くの?」
「だって・・・ルテと、離れたくない。」
「うん。僕も、フィーと離れる気は無いよ。」
「でも・・・ルテは、ノーザで・・・。」
「うん。そうだね・・・。次の統治者は僕になるだろうね・・・。」
とめどなくあふれ出てくる涙を、いつの間にか側に着ていたボルテが唇で吸い取る。
「! る、ルテ?!」
フィガロをそのままギュッと抱きしめながら、ボルテは囁いた。
「フィー。泣かないで?僕も一緒に、サウザに行くつもりだよ?」
「えっ? で、でも・・・ルテは・・・。」
「はい。これ・・・読める?」
「・・・あ、うん。って・・・これ!?」
「うん。僕に出された任務。それに、まだ叔父さんは引退する歳でも無いし、僕には経験が足りないからね。」
「そ、それじゃ・・・。」
「だから、一緒に行こう? むしろ、僕の任務にフィーを付き合わせちゃうけど、一緒に行ってくれるかな?」
「・・・っい、良いの?ボクが一緒で・・・。」
「もちろん。フィーが居なかったら、僕・・・・(何するか解らないし・・・・)」
フィガロを抱きしめる腕に力がこもる。
「る、ルテ・・・苦しぃ・・・。」
「あっ・・・ゴメン。」
ガバッと離れると、フィガロの方から腕が伸びる。
そのままボルテの背にまわされ、フィガロはボルテの鼻先にキスを落した。
「ルテと居られるの・・・嬉しい。」
「・・・フィー。」
そのまま、軽く重なり合った唇は、角度を変え何度も触れ合う。
ボルテの舌先が、フィガロの唇を軽く突っつけば、迎え入れる様に開き始める。
「んっ・・・ルテ・・・。」
「・・・フィー・・・。」
ドンドン!!!!!!
「フィガローーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「ちょっ!! ネロウさん!! 約束が違うっす!!!」
「フィガローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
玄関の外でネロウの声と共に、扉が激しく叩かれる。
その音に、抱き合っていた二人の距離が離れ、思わず顔を見合わせる。
「・・・ネロウ兄さん!?」
「・・・・はぁ。フィーは食べてて。」
黒髪をサラリを撫で、ボルテは騒がしく叩かれる玄関へと向かった。
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