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第74話
熱気の籠るコロシアムに一際大きな音が響く
その後を追う様に、割れる様な歓声が沸き起こる。
すべての歓声は、コロシアム中央に陽の光を浴びながら、キラキラと輝くただ一人の獣人に向けられていた。
その姿に、フィガロの胸は締め付けられる。金色の瞳は、水に濡れ今にも雫が零れ落ちそうになっていた。隣では、興奮して「凄い!凄い!」と兄嫁達と妹が抱きあっている。
その横では、生まれたばかりの息子を抱いたネロウの肩をトネリが撫でていた。
「はぁ・・・。フィガロ・・・。」
「ネロウ兄さん。」
「・・・たまには、顔見せに来い。」
「兄さん・・・。」
「そうだぞ!オレ達は何処にいたってお前の家族だしな!」
「トネリ兄さん。」
「そーよ!それに、私、独身獣人を紹介してもらうんだから!」
「ロマ・・・。」
「ほら、もうすぐ表彰だ。今のうちに行くといい・・・。」
「うん・・・ありがとう。」
止まない歓声の中、フィガロは観客席を立った。
コロシアム中央に表彰台が運び込まれ、用意された勲章と共に、王が観客すべてに響き渡る声で宣言をした。「今日、この日!! ノーザと友好関係を結ぶ! この勝利者、ボルテ・ルプスに大使としての権限を与え、その番もまた、同様。この権限を、脅かす者はサウザの民であれ、容赦はしない。心する様に!!!」王が言い終わると共に、コロシアムに割れんばかりの歓声が響きわたる。
背後で一際大きくなった歓声に、フィガロの尾がしっびびびっと反応したが、その宣言が耳に届く事無くコロシアム内を駆けて行った。
歓声に答える様、手を振りながら会場を後にした王の背に、思わず低くなった声でボルテが言葉を投げかけると、悠然とした態度で王は振り返ると、にやりと口元に笑みを浮かべた。
「・・・さっきのなんですか。あんな余計な事、聞いてないんですが。」
「なぁに、ちょっとした餞別だよ。それと・・・・これは、おまけだ。」
そういってボルテへと投げられた小瓶を、難なく受け取ると、王はすでにその身を翻し出迎えていた従者達と共に去っていった。
手元の小瓶を、かざすとトロリとした液体が入っている事に気が付き、ボルテの片眉が上がる。
「はぁ・・・。」
思わず、そう漏らしつつも小瓶をポケットへ仕舞いこんだ。
絶対、あの人面白がってるな・・・。
控室へと向かう中、ボルテはこれまでの事を思い出していた。
ボルテ達の元にネロウが訪ねて来た日に出された兄妹達からの一つの条件。
それは、ボルテにとって、改めて言われる様な事では無かったが、それでフィガロの兄妹達が納得してくれるのであればと、一つ返事で頷いたのだった。
が・・・
まさか、ここまでことごとく邪魔をされるとはボルテも思っていなかった。
あの日
叔父であるボルクから、正式にノーザの統治者として、ボルテに下された命により、フィガロと共にボルテはサウザを目指す事となった。
名目は、後継者として、各大陸との交流を深め、知見を広げ、今回の事件による各統治者からの賠償問題をボルテが窓口となり解決する事。
だったが、最初に立ち寄ったイースでの事が、ボルテ達の旅の予定を大きく狂わせた。
それ故に、この半年の間に、「ボルテの名を四大陸で知らない者は居ない」と言われる程の剣士となっていた。また、その見た目から、イースでは姿絵がひそかに売り出される程の人気だった。ウエスへ向かう時には、市内をパレードして欲しいとまで言われ、逃げる様にウエスへ向かった。
ウエスでは、問題無く過ごせると思った矢先、魔獣発生のタイミングに重なってしまった。
そのお陰と言っては難だが、結果。ウエスはノーザと友好関係を結んだ。
そして、フィガロの兄達をウエスで治療する事になったが・・・
そのまま、フィガロはサウザへと連れていかれてしまったのだった。
はぁ・・・。
何度目かもわからない溜息がボルテから漏れ出る。
フィー、見ててくれたかな?
控室で、サウザの王に渡された小瓶を横目に、また溜息をついてしまう。
ボルテは表彰台から見上げた先に、フィガロの姿が無かった事に気が付いていた。
だから、余計にサウザの王の宣言が気に入らなかった。
ウエスから、一人サウザへ入ったボルテは直ぐに、フィガロの兄達を尋ねに行ったが、サウザで広まっていた噂の所為で、ボルテはフィガロに一度も会わせてもらう事が出来なかったのだった。
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