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その日の朝、セラは篤司よりも先に目を覚ました。セラは篤司の部屋を訪れた。篤司はとても静かに寝ている。──とても静かに。
セラは嫌な予感がして篤司の部屋に入った。篤司の枕元まで行く。
口元に手を近づけると、微かだが息があった。まだ間に合うと、家のものを呼びに行こうとした。しかし、その手を掴むものがあった。
「待って……。汐来」
セラは振り返る。篤司の目はしっかりとセラを捉えていた。
「たぶん……もうどうすることも出来ない……。僕は……分かるんだ。もう……終わりが近い」
だからセラは呼びに行こうとしているのだ。まだ間に合う可能性がある。それでも、篤司の手はセラを離さなかった。
「たぶん、血には……相性があったんだよね。適応すれば……永遠の命だけど、駄目だったら……死んじゃう。……あってる?」
話すことのできないセラはとにかくうなづいた。セラの血は篤司には完全には合わなかったのだ。延命することは出来たが、完全には命を与えることが出来なかった。
「だから、僕はもうすぐいなくなる……。どうか、泣かないで……汐来」
篤司に言われ、セラは自分の頬を伝う涙に気がついた。拭っても拭っても溢れ出してくる涙。
「僕は……ずっと汐来が……」
──大好きだよ。
何度でも、毎日のように言ってくれた言葉。最後のそれは音にはならなかった。
篤司の手から力が消える。セラはその手を握り返すと、急いで家の人を呼びに行った。
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