8人が本棚に入れています
本棚に追加
篤司が運ばれていく。元は白い棺なのだが、夕日を浴びてオレンジ色になっている。
セラは違和感を覚えて、自分の手を見た。指の先から泡となって消えていく。愛する人を失ったからだろうか。彼女はあの人魚と同じように泡となって消えるのだと悟った。
悲しみに暮れる篤司の家族等に頭を下げ、激痛の走る足で走った。
海でついた時にはほぼ泡となっていた。セラは海に落ちた。あの日、初めて出会った時の篤司のように。
そのセラを受け止める手があった。セラが目を開くと、そこにいたのはミチだった。
セラは家を出た。もう彼女と会うことはないと思っていた。
「……妹を一人失って、子供も一人失って。こうなって欲しくなかった。あの時散々何があっても止めなきゃって思ったのに、結局こうなってしまうのね。……ねえセラ、あなた、幸せだった?」
話すことが出来ない代わりに、セラは笑顔で頷いた。
「そう……。それなら、これがあなたの行く道だったのね」
その言葉が届く頃には、ミチと泡だけが残された。
* * *
人魚姫には愛する王子を殺すことができませんでした。 人魚姫は、涙を流しながら、ナイフを海に投げ捨て、自分も海に飛び込んでいったのです。
気づくと人魚姫は天に精霊と共に昇っていきます。どこに行くのかと、人魚は尋ねました。
「あなたは私たちと同じ風の精のところへ行くのです。私たちも魂はありませんが、三百年勤めれば、魂を得られる事が出来て、天国へ行けるのです。あなたも今までの苦労の為、ここへ来られたのです」
別の風の精は言いました。
「魂を得られる期間は人によって様々で、長くなったり、短くなったりするんですよ」
その時、人魚姫の頬を涙が一粒、流れていきました。
人魚姫は愛しいあの人に会える日を夢見て、天へと昇っていくのでした。
──Fine──
最初のコメントを投稿しよう!