10人が本棚に入れています
本棚に追加
4.君の元へ行く
翠……翠……僕の美しい翠……。
今、僕も君の傍に行くよ。あ、君って言うと翠は怒るっけね。そうだな、ご主人様。やっぱり翠に似合う呼び名はご主人様だ。
僕は翠といつか来た美しい湘南の海に来ていた。もう寒い時期だっていうのに、サーファーがちらほらと波乗りを楽しんでいる。
僕は靴を脱いで、砂浜の感覚を楽しみながら海に一歩、また一歩と入って行った。
手には愛しい翠の豊かな髪の毛の束を握りしめている。
僕は翠の死体の一部と一緒に海に入る事で、共に海に還る事が出来ると思っていた。だから、持って来た。本当は翠の死体そのものと一緒に海に入りたかったが、そんな事をしたら目立ちすぎてしまう。
「今……今そちらに行くからね、翠……」
海水が腰のあたりまで来る。
次は胸のあたりまで。
サーファーたちは自分達の楽しみに夢中でこちらになんか気付かない。
その時だった。
「ワン! ワンワン!! ワンワンワン!!!」
犬がこちらに向かって激しく吠えている。
うるさいな、邪魔するな。これは僕と翠の神聖な儀式なんだ。
「皆さんこちらです! こちらで人が溺れています!!」
女の甲高い叫び声が聞こえる。
そうすると、屈強なレスキュー隊たちが僕の方をめがけて海の中をずいずいと突っ切って来た。
「君! 大丈夫か!? もう心配要らないよ!」
最初のコメントを投稿しよう!