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その後はみんなで片付けをした。
越前くんと羽瀬先輩には休んでもらって、皿を洗う係と拭く係に分かれた。
その後にみんなで泊まる予定のコテージに行って、荷物を置く。想像以上に広い部屋には二段ベッドが3つあって、各々が好きなところを選んでいく。
別にこだわりはないので余っていたベッドの下の段に簡単に荷物を置いた。
「自由時間どうします?」
「俺はねぇ」
「親衛隊と遊んでくるんですよね。
いってらっしゃーい」
永久くんに雑に返された宇野先輩は ぷんすこしながらコテージを出ていった。親衛隊の人たちとのんびりお話をする約束をしていたらしい。
羽瀬先輩は 「僕はちょっと休憩してるから、好きなところ行ってきていいよ〜」 とすでにベッドに転がりながら寝る体勢に入っていた。
羽瀬先輩が寝るなら、と外に出たがどこに行けばいいのやら。貰った地図をぴらりと広げる。
「あ、川あるじゃん」
「行こうよ! 」
「かの、変な妄想してないよね?」
「してないよ、失礼な!!ちょっと躓いてビショビショになって、みたいなハプニングが起きればいいのとは思ってるけど」
「考えてるんじゃん」
神井くんが 川 と言った瞬間、そわりと体が動いた。川に行ったことは無い。そりゃあ、キャンプが初めてでずっと都内に暮らしていれば山の中の川なんて見たことがないに決まっているのだろうけど。
オススメポイントとして 川魚がいます とパンフレットに書かれているから余計に気になってしまう。
「…川に行こっか!」
「え、いいの…?」
「いーよ!しづが行きたいところに行こ!」
神井くんもこくこくと大きく頷き、越前くんも 「別にいーよ」 と言ってくれた。
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ザーザーと水が流れる音が耳に届いて、いつもとは違う空間にワクワクと心が踊る。
「やっば〜!!!川じゃん!!」
誰よりも先に神井くんがぴょんぴょんと跳ねて川に向かう。その後ろ姿を見て 「かの、テンションたか〜」 と笑いながら永久くんが俺の手を引いた。
川辺にしゃがんで、水に手をつけると想像以上の冷たさに ふるりと体が震えた。
「あ、魚!」
「うわマジじゃん!かの捕まえてきてよ!」
「無理だけど?!!!」
ぎゃーぎゃーと河岸で騒ぐ2人は、どちらかを川に落とそうと必死になっていて面白い。
砂利に腰を下ろして、ふふっと笑う。
「あいつらほんとうるさいな…」
「仲良しだよね」
「仲良すぎなんだよ…」
隣に座った越前くんはいつものように呆れた顔で二人のことを見ていた。
神井くんと永久くんの2人は気づいたらバシャバシャと音を立ててどちらも足が水についてしまっている。
キャーキャーと声が聞こえたかと思えば、いつの間にか人だかりができていて2人のことを顔を赤くさせながら見ている。
2人はまったく気づいていないみたいだけど、何かドラマの1つのシーンでも見ている気がする。2人とも顔が整っているから、特に。
「あーーやばー」
「濡れちゃったじゃん!バカ!!」
「あ?かの、突き落とすぞマジで」
「ごめんなさい!!!」
戻ってきた2人のズボンの端はもうびちゃびちゃになっていた。
にぱっと笑った神井くんが 「みんなで写真撮ろー!」 と駆け寄ってきて、俺と越前くんは立ち上がる。
「しづ もーちょいこっち」
永久くんに肩を抱いて、引き寄せられる。神井くんの はいチーズ! と言う合図とともにぎこちなくみんなの真似をしてピースをする。
学校で撮るような行事的な写真の経験はあれど、こんな友達と写真を撮るなんてなかった。
スマホを開くとグループトークの画面にポンポンと写真が流れてきて、それをスマホに保存した。だって初めてだし
「見つけた!!!!!」
自然いっぱいなこの場所には似合わないような大きな声にビクリと体が震える。
ぽわぽわとしていた平和な空間は消え去って、その声を聞いた3人は顔を顰めている。
「しづ、行こ」
「え、え??」
永久くんは何時にもなく無表情で、さっきまでの楽しそうだった声とは裏腹に低い声を出している。ぐいぐいと俺の手を引いてすぐにでもこの場を離れようとしている。俺も戸惑いつつ、そんな彼に反抗する気なんて起きずただひたすらついて行った。
「だる…」
あの神井くんでさえ表情は無い。
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